黒い慟哭... 




生贄だとあいつは言う

生き血を搾り取ると更に言う


―――――・・・俺の中で・・・ 何かがブツリと・・・ 音を立てた・・・







彼女に触れてはいけないのだと、ずっと心に言い聞かせてきた

俺は彼女に相応しくないのだから

なのに・・・ なのに・・・




今更、悔いても遅い


・・・この時ほど、それを自覚した事はない

なんと俺は愚かだったのか




彼女を受け入れる訳にはいかない

だが・・・ 離したくはない・・・



この俺の態度が

こんな苦しみを、

こんな事態を、招いたのだ




遠くから彼女の幸せを願う事・・・

俺に出来る唯一のことだと思っていた



だが、それは・・・彼女が元気に生きていればこそ・・・



彼女の命が危険に晒されるなどと

その命が無くなろうとしているなどと・・・




・・・なぜ・・・ その事にもっと早く気がつかなかったのか・・・




彼女が俺の前から消えてなくなる?


そんな事の展開に

目の前が暗黒に染まっていく


俺の手足が冷えていき

背筋に・・・ 氷のように冷たいものが走り抜ける




身体中が抉られるようだ・・・




こんな事になって初めて

この想いに気付くとは



俺は自分に腹が立った



どんなに、その存在が大事であったか

自分にとって、かけがえのない人であったか



そして・・・ どんなに彼女を・・・ 愛していたか・・・




なぜ彼女が危険に晒されねばならないのか

なぜこうまで犠牲を払わねばならないのか




なぜ・・・ 俺から、大切なものを次々と奪い去ってしまうのだ・・・・・・?




いらん!! こんなおぞましい力など・・・


自分の宿命を呪いたかった

俺にそんな宿命を負わせたこの世界を呪いたかった

それが出来るなら、どんなに楽だったことだろう・・・





彼女はいつだって、俺を見ていてくれた

いつだってその笑顔を、向けていてくれたのだ




――――・・・カノジョダケガ バケモノノスガタノオレヲ ウケイレテクレタノニ・・・




彼女を失うくらいなら

俺のこの身などどうなっても構わない




生贄だと?

生き血だと?

自分達が力を得る為にだと?



そんなくだらない理由の為に

俺から彼女を奪うのか・・・?




・・・冗談じゃない




俺の心が・・・ 黒く染まる・・・

どす黒く噴き出す血の慟哭が・・・
 
この俺を・・・ 黒く黒く染め上げていく・・・




切り落とされた左腕

俺の中の黒い力で再び繋がる


そして髪と目が・・・

手が爪が、耳が

みるみる異形の姿を顕にしていく




もう止められない

止めようとも思わない




――――・・・だれがどう思おうと・・・ もう構わなかった・・・




おまえを失う事など

もう考えたくはない



俺は、大切なものを知ってしまった



自分の中の願いに・・・

狂おしいまでに湧き上がるこの熱い想いに

気づいてしまった



失いたくはない

奪われてなるものか




たとえこの身が化け物と化しても構わない

かならずおまえを救い出し、この手に取り戻す




もう二度と

おまえを傷つけたくはない



そしてもう二度と・・・


おまえの笑顔を・・・ 手離したりはしない・・・





(了)


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ノリコちゃんがワーザロッテの親衛隊に攫われた時のイザークさんです。
左腕を切り落とされ、そして彼女が生贄にされると知った時の彼の心の軌跡…
どす黒い、かの力が開放される瞬間とは、こんな心境ではなかったかと推察します。

この後、イザークさんはノリコちゃんを救出に行きますが、想いとは裏腹に
心が天上鬼の力に支配されていってしまう…
彼の心の悲鳴が聞えてくるようで、読んでいて非常に切なかった場面です。
夢霧 拝(06.06.02)
『空色地図』様に素材をお借り致しました。





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