光水




「ダメだ。」

窓際の椅子に、長い脚を組んで座ったイザークは、
これまた長い腕を組んで、愛妻に静かに、しかし厳然とそう言った。
穏やかな昼時である。

「でも、熱も下がったし…。」
「ダメだ。ぶり返したらどうする。今日1日は寝ていろ。」

ノリコが風邪で寝込んでから4日がたっている。
昨夜から下がり始めた熱は、朝には完全に引いた。
早速、家事を開始しようと階下に現れた妻に有無を言わさず、
当然のお姫様抱っこでベッドに連れ戻したイザークである。
その後、朝食を作り、妻と子に食べさせ、洗濯掃除から、庭仕事、娘の世話をこなし、
太陽が中空にかかった今、昼食を運んできての会話である。

「だけど…。」
「ノリコ。」

要するに、互いに互いを気遣っての、このやり取りなわけで、
友人達に知れれば、確実に酒の肴にされそうな状況なのだが…。

「とうたま、らめっ。」
「えっ?」

ノリコの休むベッドの上で、それまで黙って父と母の顔を見比べていたラピィスが急に口を挟んだ。
いっぱしに、眉間にシワまで寄せている。

「かあたまにめっ、らめっ!」
「いや別にかあさまに『めっ』をしてるわけではなくてだな…。」

組んでいた手足を解いて、ベッドの端、ラピィスのそばに座り直したイザークは、
「おろっ」という表現がぴったりの動揺っぷりである。

「かあさまは、風邪が治ったばかりだから…。」
「らめっ!」

クスクス。 ラピィスの勢いに面食らったまま、イザークがノリコに視線を移した。
愛妻は、肩をふるわせていた。

「…ノリコ…。」
「ごめん、イザーク。だって、面白くて…。」

ノリコは、既に声を上げて笑っている。
前にも、こんなことがあったなと、イザークは記憶を探る。
彼女との記憶が日々増えていることに、彼の瞳にも柔らかな光がゆれた。
ラピィスも母につられ、彼女の膝にもたれかかって笑いだした。
軽やかな2つの声が、こざっぱりした客間に響いた。

「…ほんと、ごめんなさい。」

ひとしきり笑って、涙目でノリコが言った。
ラピィスの笑い虫は、まだ治まらないらしい。ベッドの上で転げ回っている。

「おとなしくしてるから、下には降りたいわ。
本を読んだり、ラピィスのお絵かきを見たり…、
あなたのしていること、見ていたいもの。
ね、お願い。」
「おにぇがぁい。」

掬い上げるような4つの瞳に、イザークはあっさり白旗をあげた。

「…わかった。」

敵う訳がないのだ。
イザークは、静かに微笑んだ。
右手でラピィスの頭を、左手でノリコの頬を撫でながら。
絶対に敵う訳がないのだ。

なぜなら、2人は彼の光と命の水なのだから。






★★★




「『おひさま』には後日談があるんです」

前作の『おひさま』を戴いた際この御言葉も共に拝し、楽しみにしていた私に贈られたもう一つの宝、それがこの『光水』。
『おひさま』に続き、とても幸せな気持ちにして戴きました。まるで背中に羽を帯び、ひらひらと中空に舞い上がるかのよう。
こんな私でもタージ一家は幸せな天使にさせてくれる…有難いです。

『おひさま』でもそうですが、思ったのは、なんて殿はイイ男なんだろう…という事です。
こんな素敵な殿方を知る事が出来て、本当に幸せ。
素敵なキャラを生み出してくれた原作者にも感謝ですが、こうして尚夢を見続けさせてくれる二次に乾杯。
幸せな時を与えてくれる…だから、創作が好きです。

この二つの『夢』に別なタイトルをつけるなら、『優しい時』。
優しい時間です。
優しく流れる時間、優しく注ぐ陽の光の暖かさ、ゆったりと流れる優しい時です。
異世界には今日も優しい時間が流れていることでしょう。

背景に使わせて頂いたのは、『おひさま』は太陽の光、そして『光水』はドーナツを模ったおもちゃ。
二つのお話とも、小さな天使ラピィスが活躍(笑)
普段の彼女は、積み木で遊んだりするのかな〜とか、
イザークさんは娘にどんなおやつを作ってやってるのだろうな〜とか、
(普段はノリコママが作るんでしょうが、今回は多分イザークがおやつの用意もしてるんだろう)
色々考えながら背景を選ばせて頂きました。これも楽しい時間でした。
思い掛けない二つの宝、そして癒しの時を、本当に有難うございました。
皆様にも是非見て頂きたくて、今回カメ様より御許可を拝しました。
そして、煮ても焼いても如何様に…との寛大なお言葉に、謹んでの展示。
素敵な世界、皆様もご堪能頂けましたでしょうか。

夢霧 拝(09.10.31)



シリウスの夢
カメカメ様のサイトです。ワクワクが一杯詰まったとても素敵なテーマパークへどうぞ。




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