◆ 君につなぐ想い 29 ◆


「本当に、もう・・・何処に行っちゃったのかしら・・・?」

アキは、ややイライラしながら呟いていた。

「そうですねぇ・・・まったく・・・」

瑤子も、走った為に息を荒くしている。


二人は、イザークとノリコの行方を追っていた。
しかし、あの状態からそう遠くに行ける筈も無いのに、何故か見つけられない。
付近のビルやデパートなど、そこら中を探しても、二人の姿は見つからなかった。

アキは、傍にあった塀に手を掛ける。

それは、ちょうど大人が手を掛けられる位の高さの囲い塀で、その向こうには、洒落た
ファッションビルの地下部分の吹き抜けがあった。その吹き抜けには天井は無く、
晴れた日には、風と光が射し込む。そして、地下にある雰囲気の良いカフェのテラス席へと続いていた。


「参ったなぁ〜・・・絶対イケると思ったんだけど・・・ああ、悔しいわ。」
「アキさん・・・」
「だって、絶対彼しかいないのよ?彼以上の逸材がある?・・・ああ、あの時呆けたりしないで、
 あの人達を追いかけていれば・・・」

(・・・どう考えたって有り得ないわよ。人間にあんな跳躍が出来る?しかも彼女を抱えた状態で!
 いったい何なの?あれは・・・・・・・)

アキには、先程の光景が信じられなかった。

いきなりの風にも面食らったが、彼等のあの行動は何なのだろう?

自分の目の錯覚なのか?
他には見た人はいないのだろうか?

これを他の人に話したとして、果たしてどれだけの者が信じてくれるだろうか?・・・


・・・アキは深いため息を漏らす・・・・。


信じてくれる訳がないじゃない・・・・一笑に伏されるに決まってる・・・

だけど、たとえその奇跡を割り引いたとしても、彼のあの端整な顔立ち、
そして、引き締まりバランスの取れたあの肢体・・・・・・

・・・彼以上の逸材は、他にはいない。

それなのに・・・・!

「・・見失うなんて・・・なんてことっ・・・!」


一生の不覚だと感じた。
そして、アキは再び、深く息を吐いた。
脱力して後ろを振り向き、手を掛けていたその塀に身体を預けるように寄り掛かった。



・・・その時・・・―――――



「・・!」

目の前に映った光景に、アキの目が見開かれる。

その塀から身を乗り出すかのようにして、そのビルの地下カフェのテラス席を凝視した。

「アキさん?どうしたんですか?」

アキの行動に、瑤子が訝しんだ。

「見つけた・・・」

アキの唇が震えている。

「え?」

アキの言葉に、瑤子もアキの視線の先を見つめた。

「あっ・・・!」

瑤子もまた驚いて、そして再度アキを見る。

「行くわよ、瑤子ちゃん!」

言うが早いか、アキは、そのファッションビルの入り口に向かって走り出す。

「あっ、アキさん!待って下さい!」

瑤子も慌ててアキの後を追って、同じくビルの入り口に向かった。


彼女たちが見つけたその先のテラスにいたのは、紛れもなくイザークとノリコだった。





・・・・・っ!

イザークの眉がピクリと動く。

その表情から笑顔は消え、彼は空を仰ぎ、ある一点を凝視した。
それは、先程アキと瑤子がいた地上の通りに面した囲い塀の辺り。

・・・・・彼の表情が険しくなる。

イザークの様子が変化したのに気づき、典子が声を掛ける。

『・・・どうしたの?・・・イザーク・・あっちに何か?』

イザークの見ている方向に、典子も目を遣りながら訊ねた。

『帰るぞ、ノリコ・・・』

難しい表情のまま、そう言ってイザークは席を立つ。
イザークのいきなりの行動に典子は驚くが、夫に従い彼女も席を立った。




『どうしたの?いったい・・・』

そのカフェから出て来た時に、典子はイザークに訊いた。

『嫌な視線を感じた・・・』
『え・・・』

イザークの言葉に典子は驚いた。

『視線って・・・お店の客の視線じゃなくて?・・・』

確かに、カフェの客の視線も大いに集めていた。客のみならず、カフェの従業員でさえ、
イザークと典子に視線を向けていたのだ。ちなみに、女性客はイザークの容貌に惹かれて、
そして、男性客は典子の透明感溢れる姿とその柔らかい雰囲気に惹かれ、視線を向けていた。

『それとは違う。・・・何か狙いをつけるような、貪欲な目だ。』
『それってもしかして、さっきの男の人たちの?』

典子は先程のチンピラ達との太刀回りを思い出して言う。
だがイザークはそれを否定する。

『違うな・・・ヤツ等の気配とは別なものだった。』


そう話しながらも、イザークは典子を自分に引き寄せ、自分が感じた不穏な気配から
妻を庇うように歩いていた。

だが、イザークの端整な眉が、やはり先程と同じくピクリと動く。


「あなた達、ちょっと待ってっ!」


イザーク達に向かい、後ろからそう声を掛ける者がいた。
典子は、えっ・・・っと思い、後ろを振り向く。
そしてイザークもまた、ゆっくりではあるが、視線をやや後ろに向けた。

だが、彼のその表情に笑顔はない。

後ろから声を掛けて来たのは、息を切らせて追いかけて来た、アキだった。
そのすぐ傍には、瑤子もいた。

典子は先程のイザークの言葉を思いながら、夫と、そして声を掛けてきた彼女達とを見つめた。






「やっと・・・あなた達を掴まえる事が出来たわ・・・・」

アキはそう言いながら、息を整えつつ、近づいて来た。
だが、イザークの表情は相変わらず険しい。相手が女であろうと、それは変わらない。
イザークが感じ取った不穏な気配とは、まさに彼女達のものだったからだ。

イザークは無言のまま、典子を庇うように、すっと後ろに隠す。

彼等が警戒している事に気づいたアキは、相好を崩して話し掛けた。

「あ・・・・ごめんなさい、いきなり呼び止めてしまって。あたし達決して怪しい者ではないの。
 少し話をさせて頂きたくて・・・」

そして、アキは肩から掛けていたバッグから名詞入れを取り出すと、そこから一枚抜いて差し出した。

『?』

渡されたそれを、イザークは怪訝ながらも受け取るが、如何せん書かれている日本語は
まだ良く読む事が出来ない・・・。イザークの後ろにいた典子が、手を差し出してそれを見た。

「G・E・A・・プロジェクト・・・藤代・・アキ?・・・」

「ああ、良かったわ、さっきは解らない言葉で話していらしたから。あなたは日本の方よね?
 お顔立ちからして、そうじゃないかな・・・と思って・・・」

典子が日本語で話すのにホッとして、アキは笑顔になった。

「あの・・・あたし達に何の御用でしょう?」

典子もまた怪訝な表情ながら、訊ねた。



典子の問いに、アキはややクールな笑顔になり、こう告げた。

「私は『G・E・A プロジェクト』の藤代アキ。その彼に、私達の企画している写真集のモデルに
 なって頂きたいの。」


アキのその言葉に、典子は、零れ落ちるほどにその瞳を見開いた・・・―――――






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いきなりなご都合主義の展開で申し訳ございません。
突っ込みどころは多数あるかと思いますが、そこはそれ。楽しみませう。(笑)
この展開を予想されてた方もいらっしゃるかな…(笑)

オリキャラさんの名前は『藤代』と書いて『ふじしろ』と読みます。
色んな名前を考えたんですが、どうもしっくり来なくて…
時間切れで、今のになりました。
さて、どうなるんでしょ…。
夢霧 拝(06.04.09)
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