天光樹 -- nostalgia --1 |
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「えっと・・・サンドイッチに木苺のジャム、干し肉にチーズ、それに果物に野菜のサラダ、それからカカリのシロップ 煮でしょ、そして飲み物。よし、出来た!・・・これで準備完了っ!・・・うーん・・・」 籠の中の弁当を一つ一つ指で確認し終えると、ノリコは満足そうに両手を頭上に掲げ、一つ伸びをする。 今日のノリコは、朝早くから弁当作りに精を出していた。 ニーニャから聞いていた、年に一度この時期にしか見られないという花を見に、イザークと出かける為に・・・―― 二人の自宅から更に郊外へに向けて5二ベルほど出向くと、そこに管理がまだ手付かずの森が拡がる。 町の産業用に管理している森や林とは違い、道の整備も何もなく、立ち入る者はあまりない。だがその分、手付かずの自然がある言ってみれば穴場。花も緑もありのままの生き生きとした姿を見せてくれる。 ニーニャは、以前にカイザックと共に訪れたこの穴場中の穴場をノリコに教えてくれていた。そこには、とても美しい花を咲かせる樹があるのだそうだ。なんでも、今の時期にしか咲かなく、咲いても一週間ほどで、 風が吹けば儚く散っていくという。その様もまた美しいと聞き、ノリコは是非見てみたいと思っていた。 香りがとても素晴らしく、香油用にその樹の栽培も手掛けていこうと町長も考えているほどだ。 だが、何故今までそうした開発が行われていなかったかというと・・・以前その森には魔の物が現れると伝えられていて、 流石に誰も近づく者がいなかったのだ。今はそんな事も無くなったが、元凶の影響がそんな所にまで及んでいたのか・・・という思いは、今こうして平和な中でその花を愛でる事が可能になったという事に、より深い感慨をもたらさずにはいられないであろう。 弁当の準備も整い、後は支度さえすれば出かける準備は整うのだが・・・・ その一緒に出かける相手、夫―イザーク―は、二階の寝室で寝ていてまだ起きては来ない。 ノリコは様子を見に、二階へと階段を上がっていった。そうっと寝室の扉を開け、中に入る・・・・・ 夫はまだ、ベッドで寝息を立てていた。 別に彼が特別寝坊をしているのではない。・・・あくまでもノリコが早く起きただけだ。 そうっとベッドの傍に近づき、寝ている夫の顔を伺う。・・・あくまでも起こさないように・・・そうっと。 -- illustration by melt様 -- 大きい画像は、『TREASURE』へどうぞ 夫の寝顔を伺いながら、ノリコは自然・・笑顔を浮かべる。 早く出かけたい気持ちは勿論あるが、まだゆっくり寝かせてあげたいという気持ちもある。というのも、この二日ほどイザークは泊まりの仕事で家を空けていた。今日は久々の休日を取り、仕事の依頼は受けてない。 膝を折って屈み、ベッドの端に両腕を置く。その両腕の上に顎を乗せるような格好で、ノリコはじっと彼の寝顔を見ていた。 (・・・ふふ・・・イザークって睫が長いのよね、切れ長でステキだなぁ・・・) 普段であれば、今頃は当にイザークも起きている時間であるし、勿論仕事に出かける日の朝は忙しくて、こんな風に夫の観察など出来る筈もない。だから、これは休日だけのちょっとしたノリコの楽しみでもある。 ただイザークにしてみれば、ノリコにあまり早く起きて欲しくないらしく・・・ 実際彼女にも、「そんなにいつも早起きするな」と言っているほどだ。 曰く、『目覚めた時に隣にノリコの姿が無いのは、不本意』なのだとか・・・。 そして更に曰く、『既にノリコが着替えを済ませてしまっているのも、大いに不本意』なのだとか・・・。 さしずめ・・・起きた時に隣にいる妻を、素肌のままで抱きしめて満喫したい・・・といったところか・・・。 「おまえなぁ・・・」と、誰かに突っ込まれそうである。 無論、そんな突っ込みを受けたところで、よもやそれを気にする彼ではない。 (でも、これって凄く贅沢な楽しみなのかも・・・) ノリコにしてみれば、こんなステキな人が自分の旦那様で、こうして寝顔を独り占め出来るなどと・・・ 恐らく、彼女の元の世界にいたままでは十中八九実現不可能だったろう・・・としみじみ感じる・・・。 (・・・うん。やっぱり、凄い贅沢だ・・・) それにしても・・・どうしてこの人は、こんなに整った顔立ちなのだろう・・・ ノリコは、改めてそう思ってしまう。 本当に、良い所だけを集めたら、きっとこんな顔立ちになるんだろうなぁ〜・・・ こんな事を言うと、「俺の顔なんてどうでもいい」と言われてしまうのだが・・・ 未だに、自分がイザークと結婚したのが信じられないと思う時もある。前にそんな事を話したら、彼は微笑い ながら、優しく抱きしめてくれた。 ・・・だがその後、彼はなかなか妻を離そうとしなかった。・・・らしい。 (・・・でも、可愛いよね・・・) ・・・思わず顔がにんまりしてしまう。 不謹慎と言われるかもしれないが、男の人の寝顔とは結構可愛いものなのだ、という事に気がついてしまった。 特に彼の場合、少年っぽさが滲み出ていて・・・ こうやって見ていると、顔がにんまりしてきてしまう・・・ 勿論この事は、彼には内緒だ。自分のことを観察しているなどと知られたら、きっと呆れられるに違いないから。 でも、こうやっていられるのも、やはり幸せだという証拠か・・・ 彼に一番近い場所に自分がいられる事に感謝しつつ、今日もノリコは幸せを噛み締めている。 立ち上がり、窓の傍まで来る。そして、カーテンを静かに開け、窓を半分開けた。 ・・・優しい風が、そよそよと入ってくる。今日は絶好のお花見日和になるに違いない。 目を閉じて、その空気を思いっきり吸い込んだ。 「はぁ〜・・・気持ちいい・・」 そうして、朝の爽やかな空気を満喫していた時・・・ 「!・・・きゃっ・・」 逞しい腕に、後ろからふんわりと抱きしめられる・・・・ 艶のある漆黒の髪が、さらさらとノリコの頬をくすぐった。 びっくりした様子で、顔を後ろ気味に向ける。 「・・イザーク?・・・やだ、起きてたの?」 「ああ、今しがたな・・・」 その顔が、くくっ・・と可笑しそうに笑っている。 「もう、声掛けてくれたらいいのに・・・びっくりしちゃった」 言いながら、振り返り夫に向き直る。 「すまん・・・」 その言葉と同時に、下りてくる唇。・・・・そして、重なり合う。 「・・おはよう、ノリコ・・」 「う・・ん、おはよう、イザーク。・・よく眠れた?・・今回のお仕事ちょっと大変だったんだよね?・・疲れてない?」 いつもと同じ、その優しい瞳で夫の身を案じる・・・・ 気遣う瞳に、イザークもまた優しげな眼差しを返す。 「ああ、おまえの顔を見たらな・・元気が出た・・・」 「イザーク・・」 そして、妻の身体を今度はしっかりと抱きしめる。 「寂しかった・・・二日も会えなくて・・・気が狂いそうだった・・・」 耳元で囁く。夫の腕の中でノリコの頬が赤くなる。 さて、こんな睦言を妻に吐くのは、実は彼にとっては極々日常茶飯事だ。 そして、日常茶飯事であるにも関らず、言われる度にノリコは赤くなってしまう。 仮にもし一週間も続けて妻と会えないというような事態になれば、 この彼は、本当に気が狂ってしまいかねないほど、妻を溺愛している。 なので、彼が語るこうした台詞を、決して冗談と取ってはいけない。 「・・イ、イザーク、・・あの、着替えよう?・・そのままだと、風邪・・引いちゃうから・・・」 これは、何も身に纏ってない夫の身を案じてなのか、それとも恥ずかしいからなのか・・・? ・・・別段、誰に見られている訳でもないのだが、ノリコは妙にドギマギしてしまう。 「・・・そうだな・・少し冷えたかもしれん・・・・・・ノリコ・・」 「え?・・・」 「・・・・温めて・・くれるか?・・」 同じくまた耳元で囁いた。 トクン・・・ノリコの鼓動が速まる。 「イザーク・・ でも・・・遅くなっちゃうよ・・・あの・・」 早く着替えて準備しておかないと・・・ ノリコは少しばかり焦っていた。・・・が、 「ノリコ・・・」 「は、はぃ・・」 イザークに遮られ、ノリコは、慌てて返事をする。 「・・・・頼む・・」 ・・・・・・・駄目押しの一言を食らってしまった。 イザークのこの「頼む」という言葉に、ノリコは弱い。そして一切逆らえない。 いや、断るのは勿論可能であるし、それでイザークが別に怒るという訳でもないのだが、普段自分の要求やら 我侭やらを殆ど口にしないイザークのこの「頼む」は、言うなれば、彼のたっての願いなのだ。 ノリコにもそれが解かっているし、彼の為になら何でもしてあげたいとの想いは、誓いを立てたあの日から変わらない。 ・・・・・・・だから勿論、拒否など出来る筈がない。 早く起きてお弁当を作ってしまってて良かった・・・とノリコは心底思った。 そして、夫の要求にノリコはコクリと頷く。 耳元に寄せられていた彼の唇が、僅かにクスッ・・・と形を変えたように見えたのは・・・、 果たして気の所為なのか、否か・・・・・・。 「でも、少し・・だけよ?・・・あまり時間がないから・・・」 「ああ、了解だ・・・」 言うが早いか、彼女の背と膝の裏に素早く手を遣り、ひょいと軽々抱き上げる。 そのあまりの性急さに、 「ひぁっ・・!」 ・・・ノリコは驚いてしまう。だが、 「・・・時間が惜しいからな」 そう言った彼の顔は、やはりニヤリと笑っていた。 二人が結婚して、そろそろ半年近くになろうか・・・ その間一緒に暮らしてきて、彼が解かった事・・・ それは、「頼む」という言葉を出せば、ノリコが逆らわないという事だ。いや、元よりノリコがイザークの頼みを断る筈がないというのは解かりきった事だが、彼は普段はやはり多くの望みを語らない為、たまに発するこの「頼む」は絶大な効果を発揮するという訳で・・・ どうやら、イザーク自身も、これで味を占めたのかもしれない・・・―――― ―――――・・・ トントン・・・トントン・・・――― 扉を叩く音が響く。・・・だが、中からの反応は無い。 扉を叩いた主が、怪訝な表情になる。斜め後ろには女性が一人。同じく不思議そうな顔で、斜め前の男性と顔を見合わせる。そして二人とも、それぞれその肩にはチモを乗せていた。 「・・・変だな・・・いない筈はないんだが・・・」 「ひょっとして、まだ寝てるのかもよ?・・昨日まで二日詰めの仕事だったんでしょう?彼・・」 女性がクスッと微笑う。 「ああ、それは確かにそうだが・・・」 言いながら少し後ずさりし、二階の窓に視線を遣る。 「今日は、一緒に行くからと・・約束してたのになァ・・・」 やや苦笑気味に、ニヤリとその口元が上がる。 「イザァークッ!おーい、起きてるかあーッ?!」 掛け声一発、大声で叫ぶ。 「ノリコぉ〜?支度は出来てる〜?」 女性もまた、クスクス笑いながら呼んだ。 そして案の定というか・・・、その頃、ノリコは猛烈に焦っていた・・・・・・。 ガバッと飛び起き、そして掛け布を身体に巻きつけ、身体に留めるのもそこそこ、急いで窓辺に来て、窓を開ける。 身体を見られる訳にはいかないので、顔だけ出して声の主に返事をした。その顔は、焦りと恥ずかしさで既に真っ赤だ。 「あの、ごめんなさいっ、カイザックさん!ニーニャさん!・・・おはようございます。それで、あの・・・支度はして たんだけど、あの、その・・・・・・・・」 まさか事情を説明する訳にもいかず・・・最後の方は声が小さくなる。 訪ねて来たカイザックと妻のニーニャは、笑いながら「おはよう〜、ノリコ」と声を掛けた。 さて、ノリコをそんな風に焦らせる原因を作った張本人たるかの人は、微笑いながらその髪を一つ掻き上げ、ベッドから降りた。そして妻の後ろに立ち、窓枠に手を掛け、窓からやや身を乗り出す。 ・・・そこは男たる所以か、上半身が出ても恥ずかしくはないようだ。 「よぉ、イザーク。・・・なかなか盛んだなァ」 「ああ、すまない。悪いが、あと半時ほど待っては貰えないか?・・中に入っててくれ」 焦るでもなく、微笑いながら外の二人に返事をした。 「ああ、じゃあそうさせて貰おう。・・・急げよ?」 ニヤリとしながらそう言うと、やはり笑いながら扉を開け、カイザックとニーニャは中に入っていった。 二人が中に入ると、こざっぱりと片付いている居間の、テーブルの上には籠が置いてあった。 やおらその中を覗く、カイザック。 「弁当だな・・・」 クスッと微笑う。 「あら、じゃあ、お弁当の用意はちゃんとしてたのねぇ〜、ふふふ」 「そのようだな。随分と腕によりをかけたって感じだ、恐らくこれはノリコが作ったんだろう。・・・さしづめ、イザークを 起こしに行って、それで奴に掴まって逃げられなくなったってとこか?」 「もう、ホントにイザークったら、朝っぱらからしょうがないんだからァ〜」 ニーニャもまたクスクスと笑う。 「ま、何せ丸二日家を空けたんだからな。奴にとっては、二日《も》だ。朝っぱらだろうと、愛妻にかぶりついても 仕方ないだろうさ」 そして二人で笑う。 イザークとノリコよりは年上で先輩夫婦にあたるこのカイザックとニーニャ夫妻、流石にそこは察しも良く、更には多少年長者たる所以だろうか・・・ その会話にもやはり余裕の色が窺えた。 二階の寝室では、着替えを済ませたノリコが鏡の前で髪に櫛を入れていた。 「ノリコ、櫛を貸せ。俺がやろう・・」 そして、同じく着替えを済ませたイザークがノリコの後ろに立ち、彼女から櫛を取り上げる。 「だいぶ伸びたな・・・」 言いながら、丁寧に髪を梳かしていく。 「うん・・・。あのね、今日は本当は纏めようと思ってたの・・・」 「編むのか?」 「そのつもりだったんだけど、ちょっと時間が無さそう。二人を待たせてるし、やっぱり下ろしたままで行こうかな・・」 髪を梳きながら、鏡に映る妻を見つめている。 「・・俺がやろう、紐をくれ・・」 「え、いいのに・・」 ノリコが思わず後ろを振り返ったので、 「こら、前を向いてじっとしてろ。動くと出来ん・・・」 微笑いながらそう言い、両手でノリコの頭を押さえ、半ば強制的に鏡の方に戻す。 「イザーク・・・」 「すぐに済む。それに今日は、編んだ髪のノリコが見たい・・」 耳元でそう囁き、ニッと微笑う。 そんな風に言われて、ノリコはまたも赤くなってしまう。 外出の際には、こうして髪を編んで纏める事もある。ノリコが自分でする事もあるが、イザークがしてくれる事も多い。ノリコはこうしてイザークに髪を触って貰うのが好きだ。キレイに仕上げてくれるというのもあるが、触れてくれる事で傍にいるのを更に実感出来るから・・・・ 目を閉じると、じんわり・・・ そうした嬉しさを感じてしまう。 「出来たぞ、これでどうだ?」 その声に、ノリコはハッとして目を開けた。鏡に映る自分とイザーク。その彼が微笑っている。髪に目を落とすと、編んだ髪には解けないようにと紐が器用に編み込まれている。そしてそれは、しっかりと下で留められ、更に別な布を使いリボンのように縛られている。どうやら随分と器用に、しかも見栄え良く仕上げてくれたようだ。 「なかなか、可愛いぞ?」 肩に手を掛けながら、笑顔でそう言う。 「ぁ・・ありがとう、イザーク・・」 そしてノリコも笑顔で振り返り、礼を言うが・・・・・ 「・・・・!」 振り向きざまに頭を押さえられ、イザークに唇を奪われる。 極々至近距離での彼の顔・・・ 額と額を密着させ、そしてその顔がニッと悪戯に微笑い・・・ 「本当に綺麗だ・・・また惚れ直した・・」 そう言い、また唇を重ねる。 彼の長い睫が揺れる・・・・ ノリコは、硬直した身体に電気がぴぴぴっ!・・と走るのを感じた。 さて、夫のこうしたシビれるような睦言も不意な口づけも、決してこれが初めてではない。 だが幾ら、かのいかつい顔の友人に、 「いい加減に慣れろよなぁ〜」 と、言われてからかわれたとしても、この夫の行動には、慣れようにもその都度動揺してしまう・・・ 自分でも解かってはいるのだが、時に魔性を思わせるほどにカッコイイ夫を持つ者の悩みというか、何というか・・・ 結局ノリコは結婚した今も尚、イザークに恋をしているのだ。だから、毎日が新鮮であり、こんな事でもやはり彼女は、激しく動揺してしまう・・・らしい。 そして、そんな彼女の反応が可愛くて、イザークもまた、つい不意打ちを食らわしてしまうのだ。 だが、そのいかつい顔の友人は、そんなイザークに対しても・・・ 「しかし、おまえも遠慮というものをしなくなったなぁ〜・・・」 とやはり呆れ、苦笑している。 ・・・だが、もっともそんな冷やかしに対しても、 「遠慮?・・・なんでそんなもん、しなければならん・・・」 と、当のイザークはまったく意に介さない。 ・・・・・・・・これも、結婚した事で生まれた、彼の《余裕》というものか・・・。 支度を終えたイザークとノリコが階下へ降りて来る。 居間の扉を開けた時、カイザックとニーニャは共に長椅子に腰掛けて、話をしていた。 現れた二人に、カイザックとニーニャは共に視線を向ける。 「随分とゆっくりだったな、イザーク。尻に根が生えるかと思ったぜ?」 カイザックの顔がやはりニヤリと笑っている。 「すまんな、勘弁してくれ・・」 と一応謝っては見せているが、本心は別に悪いとは思ってない彼の表情もまた、ニヤリと悪戯だ。 「本当にごめんなさい、カイザックさん、ニーニャさん・・・」 ノリコだけがその頬を真っ赤にしながら、二人に謝っている。 「あら、ノリコ、髪キレイに纏めたのね。それはイザークに?」 「え、・・えぇ・・」 「ステキよぉ〜、とっても」 「あ、ありがとうございます・・」 褒められて嬉しいのと先程からのドギマギで、ノリコは赤くなって礼を言う。 「まあいいさ、ここに来る時はある程度覚悟はしてるからな。特に今日はあんたは休みだ、・・ほらよっ!」 そう言いながら、カイザックは布包みを一つ、イザークに向けて投げてよこした。 「む!・・・?」 怪訝な顔でそれをキャッチする。 「・・・これは・・?」 「その分じゃどうせ、朝飯もまだなんだろ?すぐに出かけるってぇのに、食うもん食わなきゃ何も始まらん」 「カイザック・・・」 「そうだろ?・・・ま、それ食えよ。朝飯用のパンが入ってる。ウチのカミさんの手製だ、旨いぞ?」 「・・・カイザックさん・・」 二人の不思議そうな顔に、ニーニャが説明の言葉を繋ぐ。 「ふふふ。こんな事もあろうかと思ってね、それで用意して来たのよ?・・朝食まだなんでしょ?二人とも」 言われて初めて、そういえば朝ごはんもまだだった・・・とノリコは気が付いた。 自分たちの行動パターンが読まれてる・・・・・・ この先輩夫婦の深い洞察力に対し、ノリコの顔が更に真っ赤になったのは・・・言うまでもない。 |
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