◆ 君につなぐ想い 21 ◆
※このページ後半、性的表現注意報発令中
苦手な方はお引取り下さい。



部屋に入り、典子は部屋全体の照明ではなく、ベッドの傍の白色灯のサイドライトを点けた。

『向こうのランプの灯りを思い出すの・・・だから、こっちの灯りの方が好きなのよ。』

言いながら、典子は微笑う。
イザークはベッドに腰掛け、典子に視線を向けた。

『ねぇ、イザーク。もしも、あたしが言葉を覚えるのがもっと遅かったら・・・
 ガーヤおばさんの所にあたしを預けるの・・・もっと後になってた?・・・』
『・・ノリコ・・・?』
『・・・教えてくれる?』

イザークはやや瞳を伏せる。膝の上で手の指を組んで、少し考える仕草・・・

『・・・そうだな・・・断言は出来ないが、そうだったかもしれん。・・・だが、あのタイミングで
 ガーヤの所に預けたからこそ、再会までそれ程日を要しなかったとも・・・言える。』

顔を上げたイザークは微笑う。

『ジェイダ左大公の件は、予想外だったからな・・・』

『そう・・だね・・』

典子は少し寂しく微笑った。そして、イザークの隣に腰掛ける。

『どうした?・・・俺の言った言葉が、気になっているのか?』

典子の肩に手を添え、顔を覗き込みながらイザークは訊ねた。
典子もまたイザークを見つめる、そして、首を左右に振った。

『そうではないんだけど・・・どうしてあたし、こっちに戻されてしまったのかな、って・・・
 それがずっと気になってるの。・・・でも考えるだけで、全然答えは出て来ないんだけどね・・・』

そう言うと、自嘲するように微笑った。

『あたしって、あの世界にとって何だったのかな・・・やっぱり異分子に過ぎないのかな・・・』

典子の言葉で、イザークの顔に若干動揺の色が表れる。

『ノリコ・・・何を言う・・・?』

『・・・本当はあの世界に、あたしの居場所なんて何処にも無いのかも、って・・・
 そんな事、認めたくはないんだけど・・・ でも、あたし一人ではあの世界に帰れないし・・・
 やるせない気持ちばかりで・・・
 ・・・何があたしに足りなかったのだろう・・・、あたしはどうすれば良かったのだろう・・・
 いろいろ考えるんだけど、やっぱり答えが出てこないの・・・
 ・・・もしかしたら、そんなあたしの不安に付け込まれたのかな・・・何かの力によって・・・』

『ノリコ・・・』

苦笑しながらも、ノリコは言葉を続ける。

『あたしは、あなたの役に立ってるのだろうか・・・もっともっと頑張らないと、
 あっちにいられなくなってしまうかもって・・・不安な気持ちが、拭いきれなくて・・・
 ・・・ねぇイザーク?・・・あたしあなたの役に立ってた?・・・もしかして・・・あの世界では、
 もうあたしは用済みで・・・・・・』

最後まで言わないうちに、典子はイザークにきつく抱き締められる。
引き寄せられた瞬間、典子の髪がふわりと舞った。
目の前には、夫の逞しい胸。・・・典子は夫の腕に、すっぽりと包まれる。
驚いて典子は目を見開き、言葉も出せず、暫く動けなかった。


暫くの沈黙の後、イザークは口を開く―――――

『ノリコ・・・・・・』

イザークの声はやや掠れていた。

『・・・俺がノリコを必要としている・・・だから傍に置きたい・・・
 それが・・・おまえがあの世界に居続ける理由であっては・・・ダメなのか?・・・』

ややくぐもった声がそう囁く。

『・・イザーク・・』

抱き締められている為、身動きは出来ないが、彼の鼓動が伝わってくる。
そして声が、典子の耳に届く・・・

『おまえが消えたとガーヤから聞かされた時・・・恐れていた事が現実になったのかと、俺は震えた。
 そしておまえの存在が、あの世界ではとても儚いものなのだと、改めて思い知った・・・
 だが俺にとっておまえが傍にいるのは、もはや当たり前になってしまってる・・・・・・』

典子の身体がピクンと震えた。

『・・・家族さえ気付かなかった、俺の心の内を解かってくれたのは、おまえだけだった・・・
 闇の中にいた俺を救い出してくれたのも、俺の孤独を癒してくれたのも・・・そして、あんな醜い
 化け物の姿を晒してしまった俺を恐れず、それでも構わないと言ってくれたもの、おまえだけだ・・・・
 いつだっておまえは、この俺を支えてくれていた・・・
 ・・・それでも、俺の役に立ってないと思うのか?・・ノリコ・・・』
『あ・・・・・』

抱き締めていた腕を緩め、イザークは典子を見つめた。
典子も顔を上げ、イザークを見つめる。

『用済みになど、する訳がない・・・ ノリコが必要だから、俺はおまえを追って来た。
 おまえは、俺が一生傍にいて欲しいと願う、ただ一人の女だ。・・・離したくはない。
 ・・・ずっとおまえを守りたいんだ。・・・だから、これからもそうさせてくれるか?』
『イザーク・・・』
『・・・義務感じゃないと・・・そう言ったよな・・・?』

イザークは穏やかな笑みを浮かべる。

『出会った時から刻んで来た俺たちの時間は・・・決して消えることはない・・・
 ・・・それに・・心配せずとも、おまえの居場所はちゃんとある・・・』
『あたしの・・居場所・・・?』

確認するかのように、典子は同じ言葉を呟いて訊き返す。

『そう、おまえの居場所・・・この俺の傍だ。』

そう言うと、イザークは自分の胸の辺りを指差した。
 
『イザー・・ク・・・』

ずっとイザークの言葉を聞いていたが、いつの間にか典子の瞳には涙が溢れていた。
典子はイザークの胸に顔をうずめる。
包み込むように、イザークは典子を抱き締めた。

『もし、またおまえが消えるような事があれば、俺は何度でもおまえを迎えに来る・・・・
 だから、もう心配するな・・・・』

言いながら、典子の髪を愛しげに梳いていく。

『・・・おまえのいない世界は・・・俺にとっては何の意味も無いんだ・・・』



何もかも夢のようだった・・・―――――
夢なら覚めて欲しくない・・・そう典子は心から願う。

どうしてあの世界からこちらに飛ばされて来たのかは解からない・・・・でも、もう考えるのを止めた。
今、こうして愛しい人の胸に抱かれているのだ。今ここにある温もりだけを信じたかった。
そしてこの温もりが、典子を一層幸せな気持ちにした。
身体が壊れてしまうまで、抱き締めて欲しいとさえ感じる・・・・・・恐いくらい幸せだった。

『夢なら・・・・』

典子が呟く。その呟きにイザークは耳を傾け、典子を見つめた。

『夢なら・・・覚めないで欲しい・・・眠るのが恐い。・・・夢じゃない事を信じたい・・・』
『ノリコ・・・?』
『・・・あたし、昨日まで、悲しくて仕方なかったのに、今はこうしてあなたが傍にいてくれる。
 あたしを迎えに来てくれた。あなたに必要とされてる・・・それが嬉しくて堪らないの。
 ・・・でもこれが夢だったら・・・もし起きた時にあなたがいなくて、それでもし夢だったってなったら・・・
 そんなの・・・悲し過ぎて・・・だから・・・あたし・・・眠るのが恐くて・・・』

イザークは、抱き締めていた典子の身体をそっと離し、その瞳を優しく見つめる。

『これが夢でない事ぐらい・・・すぐに解かる・・・』

その言葉に、典子は問うように見つめた。

『・・・確かめてみるか?』

イザークの声が、低く艶を含んで響いて来る。
だが、典子の耳には確かに聞こえる甘いテノールの響きだった。

『イザーク・・・』

イザークは典子の髪に手を差し入れ、頬をしっかりと支え、自分の方を向かせる。
そして、薄紅色の唇に、自分の唇を重ねた。触れるだけの口づけを何度か繰り返し、
更に今度は唇を割って舌を差し入れ、そして絡め合い、熱い口づけを交わす。

一度唇を離し、また角度を変えては更に深く熱く口づける。
典子もそれに応じ、夫の首の後ろに自分の両手を回した。

そっと唇を開放すると、イザークは再び妻の瞳を熱く見つめる。
彼女の頬は既に少し上気している。・・・それがまた、堪らなく愛おしい・・・

『眠るのが恐いのなら、眠らなければいい・・・』
『・・ぁ・・・』

それを聞いて、典子は心臓が一際大きく高鳴るのを感じた。
ドクン、ドクン、ドクン―――――・・・
きっとイザークにも聞こえているだろうと思えるほどに・・・早鐘を打つ。
まるで身体中が心臓になったかのように、ドクンドクン響く・・・

そして、イザークの射抜くような熱く真剣な眼差しに、そのまま意識が 遠のいてしまうような気さえした。


イザークは典子の耳元に唇を近づけ、その耳朶を甘噛みし、舐め取るように口づけする。
そして、やや掠れた声で囁く。

『安心しても・・眠るなよ・・・ノリコ・・・』

とどめの一言に、典子の身体がピクリ・・・と震えた。

安心すると眠ってしまうのは、典子の癖だ。それをするなと言う・・・・
こんな殺し文句を言われたら、もう何も言えない、何も抗えない。
抗う必要も無かった。夢ではない事を確かめたいのは、典子なのだから・・・・

眩暈がする。少し浅い呼吸のまま瞳を閉じた。

『・・・うん・・・イザーク・・・眠らない・・・眠らせないで・・・・・』

うわ言のように呟く・・・

自分でも爆弾発言してしまったと思ったが、そんな事はもうどうでも良かった。
頭の中が既にくらくらしていて、思考力も理性さえも奪っていく・・・
身体の奥から滲み、溢れ出てくる熱いものを感じ、心地良い痺れで全身が覆われていくようだ。

そうして、夫に自分の身を委ねた・・・・・・

イザークは典子の膝の下に手を差し入れ軽々と抱き上げる。
そして彼女をベッドにそっと横たえた。

妻を組み敷き、見つめるその眼差しは、優しく・・・そして熱い・・・

そして、愛しい妻の額に、頬に・・・耳に・・・その愛らしい唇に・・・
更に熱く・・・更に深く・・・想いを込めて口づけしていく。

離れ離れになっていた時間を埋め合わせるかのように、そして貪るかの如くその熱い塊を絡め合う。


唇は、首筋へ・・・・そして、服を開きながら、更に下へと移る。

典子の身体から、甘い香りが立ち上る。・・・それは眩暈を誘う程に・・・

そして、永遠を思わせる、時・・・


口づけの雨が止まらない、何度も何度も・・・・

抑えようのない熱い吐息が、二人を更に熱く溶け合わせた・・・・




再会が夢ではない事を何度も確かめるように・・・

今この腕の中に、最愛の存在がいるのだと信じる為に・・・


二人の熱い夜は、終わらない―――――





宜しければご感想をお聞かせ下さい→Mailform

ごめんなさい…。
どの辺までなら大丈夫かなぁ〜?と考えつつ…です。
頭の中ではかなりいろいろと妄想しちゃってますが(笑)、
でも活字にするのは、やはり限界がありますね。
でも二人は夫婦(しかもまだ新婚さん)ですので、まぁ甘甘なのは
当然っちゃ当然…と半ば開き直り(←莫迦)。

ぐはっ!……イザークの遠当てを食らってしまい撃沈…
寝所を覗いた事を怒ってるようです…
でもさ、ずっとノリコを泣かせっぱなしだったから、
せめてもの罪滅ぼしにと思っただけ。…ですw
夢霧 拝(06.03.25)
本文一部改変 (06.10.26)
Back  Side2 top  Next