◆ 君につなぐ想い 23 ◆


「なるほど・・・じゃあ、もう【デラキエル】の力を完璧に制御出来ているのか?」

父の言葉に、イザークは頷く。

「まえは・・・ふあん、いかり、それが、つよくなって・・・ちからがあばれた。こころまで・・・なくすほどに・・・
 ・・・だが、いまは、もう・・・ふあんはない・・・ちからのせいぎょ、できる。・・・・ただ・・・」
「・・・ただ?」

イザークは苦笑しながら言葉を継いだ。

「・・・ノリコ・・・いなくなったとき・・・すごい、あわてた・・・」
「ほう。なるほどな・・・そうか。」

父もまた苦笑しながら頷いた。

「力は暴れなかったのか?」
「かくご、してた・・・だが・・・すこし、あぶなかった・・」
「そうか・・・よく抑えたな・・」

二人とも苦笑する。


不意にぴくりとイザークが反応し、おもむろに振り返る。視線は居間の扉より上の天井に向かっていた。

「ん?・・どうした、イザーク」
「ノリコがおきた・・・」

視線を天井から外さぬまま、イザークはぼそりと呟き答えた。

「んん?そんな事が解かるのか?」
「けはいで・・・わかる」
「ほぉぉ、凄いな、君は・・・」

目を見開いてイザークを見ながら、父は感心した。




イザークが典子の父と話をしている間に、典子の母が二階に行っていた。そして暫くの後、典子の悲鳴と
共に、何かがぶつかったかのような大きな音に、父とイザークは仰天し天井に視線を向ける。

「何なんだ?今の音は・・・」

面食らった父の言葉に、天井の方を窺っていたイザークは程なくその気配を察知しその場で立ち上がる。

「・・・ノリコが、ころんだ」
「はあ?何だって!?・・・そんな転んだ事まで解かるのか?」

訊かれてイザークは頷いた。

「ああ、すがたがみえる・・・」

透視まで出来るという事に、父は目を見張った。

「驚いたな・・・君は、透視も出来るのか・・」
「けはいで」

そう言葉を足した上でイザークは頷き、様子を見てくる、と一言断るが早いかすぐさま居間を出て行った。
その場に残された父は半ば唖然としながら、凄い男を義理の息子に持ってしまった・・と痛感。頭を掻いたのだ。









イザークは素早く階段を駆け上がると、典子の部屋の扉を勢い良く開けた。

「!」

彼の目に飛び込んで来たのは、典子が床で立てなくなっている姿だった。
しかも何も身に着けておらず、申し訳程度に掛け布が身体に纏わりついている、何ともしどけない姿・・・。
そして、すぐ傍には典子の母がいる。

「ノリコっ」
「・・・ぃ・・・イザーク・・・」

典子も母も面食らい、その場で固まってしまう。特に典子はこういう展開になるとは思いもしなかったので、
何ともバツの悪い場面であると、顔を真っ赤にしながら思った。
一方で母は、一瞬固まったものの、すぐに、あらあら・・・という感じでイザークと典子を交互に見ている。

イザークは母の存在などお構いなしに近づいて来て、典子の身体を支えようと手を添え、
心配そうに妻の顔を覗き込む。

「おまえがころぶのがわかった・・・けがはないか?ノリコ・・・」

イザークの表情は本当に心配そうだ。
髪に手を梳き入れ、乱れた髪を直し、労わるように撫でる。

典子は暫く固まったままだったが、ようやく言葉を発する。

「だ・・・大丈夫・・・あ、あたしがドジで、転んじゃった・・・だけ・・だから・・・」

恥ずかしさで言葉がどもり、冷や汗まで出てくる。イザークが心配しているのは判るが、このシチュエーションでは
典子も笑顔を見せつつも、表情が引き攣ってしまうのを隠せなかった。
一方で典子の母の表情たるや、どう見ても、この光景が面白くて仕方ない、という感じが滲み出ている。

「イザークさん、典子の事お願いしても良いかしらね?
 典子ったら、足に力が入らなくて、それでもつれて転んだみたいなの。
 着替えさせてやってくださいね〜」

クスクス笑いながら、イザークにそう言った。そんな母を、典子はやや恨めしそうに見る。

「・・・お母さん・・・面白がってるでしょ・・・」

母はその質問には答えずに、「じゃ、これ持っていくわね〜」・・と、シーツに手を掛ける。

「あっ、お母さん!・・・いいってばっ!」

典子の抗議にはまったく耳を貸さず、鼻歌交じりに母はサッとシーツを素早く取り上げると、それを抱えて部屋を出て行ってしまった。


「ぅ・・・ぅぅぅ・・・」

典子は恥ずかしさのあまり、真っ赤になったまま固まって動けない。
イザークはそんな典子の様子に微笑むと、彼女を抱き起こす。

『ぇ・・・ぁ、イザーク?』

典子は慌ててしまった。が、イザークは、彼女の身体に手を添え、素早く仰向けにしてその背と膝を抱えると、 さっと抱き上げる。その時に彼女の身体を覆っていた掛け布がはらりと下に落ちた。自分の身体が露になって しまい、典子は慌ててイザークの服にしがみつく。

ふっ・・と、服から夫の匂いがした・・・・・

『・・・イ、イザーク・・・あの・・・大丈夫だから・・・もう降ろしてくれる?・・・』
『・・・何も言わなくていい。・・・解かっている・・・』

イザークは典子をベッドの端にそっと座らせる。
そして典子の着替えを手にとって、彼女の隣に座った。

典子は、恥ずかしげに胸の部分を隠すと、真っ赤になったまま着替えを受け取ろうとする。だが、イザークは彼女の手に 届かぬように着替えを高く上げたので、典子の手は肩透かしを食らったかのように虚しく空を掻いた。

『え?・・・』
『おれが着替えさせてやる。・・・じっとしてろ。』

イザークの表情は少々悪戯だ。口元がニヤリと笑っている。

『そんな・・・いいよ。赤ちゃんじゃないんだから、着替えくらい自分で、す・・・っ!』

その先の言葉は、イザークに唇を塞がれてしまって続けられなくなる。
典子は驚いて瞳を見開き、離れようと手でイザークの肩を押そうとするが、手首を掴まれてしまう。
更にもう片方の彼の手は、背後でしっかりと典子の身体を抱き留めているので、逃れようにもビクともしない。
イザークの長い睫が目の前で閉じられている。典子は抗えずに目を閉じ、口腔深くまでイザークの熱い塊を
受け入れた。

『・・ん・・・ん・・・』

イザークは典子の身体を支え、逃げられないようにしっかりと抱いた状態で、尚も妻の唇を味わっていく。
頭がまたくらくらするのを覚えながらも、典子はイザークの求めに応じた。

・・・身体の奥が、またじんわり熱くなるのを感じる。


そして、重なっていた唇がゆっくり離れた。

イザークは妻の瞳をじっと覗き込むように見つめた。彼女の瞳は若干潤んでいて、 典子は、多分ふた目と見られないくらい自分の顔は赤いだろうと、凄く恥ずかしくなった。

『解かったな?・・・じっとしてろ。』

有無を言わさぬその無敵の微笑みに、典子は心臓を射抜かれたように見入るだけで何も言えず、ただコクリと頷いた。

イザークは器用に典子を着替えさせてくれた。まるでまな板の鯉のように、典子は抗わなかった。
こんな時は抵抗しても無駄だという事は、既に充分過ぎる程その身体に記憶させられている・・・

典子の前に跪き、その脚をさすりながらイザークは訊ねた。

『脚の具合はどうだ?・・・』
『うん・・・もう平気だよ・・・』
『身体は辛くないか?』

典子の瞳をまたじっと見上げる。

『うん・・・大丈夫、・・・心配掛けちゃってゴメンね・・・』

典子は、ややはにかんで応えた。

『いや、悪いのはやはり俺だな。昨夜は殆ど、おまえを寝かせなかったから・・・』

イザークは瞳を伏せ、苦笑した。

『・・・だが・・・夢じゃなかっただろ?』
『ぅ・・・うん・・・』

また昨夜の事を思い出して、典子は赤くなってドキドキする。

『あ・・・でも、イザークだってほとんど寝てないのに・・・ さっきも、あなたが今朝は早かったって、
 お母さんが・・ 大丈夫なの?』

そう訊かれてイザークは目を見張る。そして苦笑しながら訊き返す。

『俺の心配をしてどうする?・・・』
『だって・・・イザークだって向こうからの移動で疲れているでしょ?・・・だから・・・』

イザークはクスッと微笑う。

『おまえに逢えたから・・・元気が出た・・・』

典子の頭に手を遣りながら、

『ノリコは俺の気付け薬だからな・・・』

そう言って典子に微笑む。

『イザーク・・・』


イザークは立ち上がり、ノリコの手を取る。

『立てるか?・・・ノリコ・・・』
『・・・あ、・・・うん』

そして典子を支えながら、そっと立たせてみる。

『大丈夫のようだな・・・』
『うん・・・大丈夫・・・・・イザーク、あ、あのね・・・』
『ん?・・・なんだ?』
『あの・・・昨夜・・・ごめんなさい・・・あたし・・・いろいろ・・・・あなたに・・・口走って・・・あの・・・
 呆れてない?・・・・変に思ってないかな?・・・あの・・・あ・・・・』

恥ずかしげに、しどろもどろな調子で弁解するので、イザークは一瞬何を言うのかと、訝しんだ。
が、すぐに、典子の言わんとしている事を悟り、穏やかな笑顔に戻る。
そして苦笑しながら、典子の髪をくしゃっと撫でた。

『なぜ呆れるというんだ?・・・・』
『え・・と・・・だって・・・あたし・・・』
『ノリコ・・・俺は別に呆れてもいないし、変にも思っていない。・・・安心しろ。』
『え、本当に・・・?』
『ああ、むしろ俺は嬉しいと思ったんだがな・・・おまえの本音が聞けて・・・』
『え・・・・』
『違うのか?・・・あれはおまえの本音だと思ったのだが?・・・』
『・・・・違わ・・・ない・・・』

典子は真っ赤になる。
イザークは典子の頬を包むように手を添え、上を向かせる。

『俺に限らず、男なら誰もが喜ぶ台詞だと思うぞ?・・・まあ、俺以外のヤツには絶対言って欲しくない
 台詞だけどな』

典子の瞳を覗き込むようにじっと見つめながら、やや悪戯な表情になる。

『・・あ・・・・』

そして、典子の身体を包むようにイザークは抱き締める。

『あれは、俺の願いでもある・・・・・寂しかったのなら、そう感じなくても済むように、もっとおまえを
 抱き締めたい・・・・ そして、もっとおまえを愛したい・・・』
『イザーク・・・・』
『・・・いきなり、離されてしまったからな・・・・おまえの不安な気持ちは解かる・・・俺も同じだ・・・』
『・・・うん・・・・』

典子もイザークの背中に腕を廻し、夫の服をきゅっと掴んだ。

『もう離さない・・・ずっとおまえの傍にいる・・・ だから、おまえも俺の傍にいてくれ・・・』
『イザーク・・・うん、うん・・・傍にいる、ずっと傍にいる・・・』


離れ離れになっていたからこそ、再び逢えた今、お互いに求める想いに応える事が出来る。
寂しい思いを忘れさせる事が出来る。全てを与え、そうして包む事も出来る・・・・

想いを通じ合わせたあの日の誓い・・・
そして、婚姻を結んだ日の永遠の誓い・・・
その気持ちを何度でも確かめ合う・・・
お互いの心は一緒であると・・・
そしてもう決して、離れてしまわない為に・・・

抱き締める手に力がこもる。

そして、唇を重ね合う。
ここにお互いがいることを、確かめ合う・・・・



重なり合っていた唇が、離れる。
二人とも笑顔を交し合った。

イザークが優しく見つめる。

『大丈夫か?』
『うん・・・大丈夫・・・』

少しはにかみながら、夫の問いに応えた。

『腹が減っただろ?・・・お母さんに特製のスープを作ってもらった。元気が出るぞ』
『え・・・さっきお母さんもそう言ってたけど、特製って何のスープ?』
『食べてみれば解かる。さ、下に降りるぞ』

イザークは典子の腰に手を添え、促す。そして二人は部屋を後にした。





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えぇと…注意報を出すほどではないですが、熱いですね。
結婚してからのイザークさんは、是が非でも幸せであって欲しいという管理人の願望です(笑)。
ノリコママは、相変わらず大人の余裕です。
でも、ノリコちゃんも20歳(もうすぐ21歳)、イザークさんは23歳で、
二人とも大人なんですけどね(笑)。
こうだったらどうだろう?…という展開で考えてみました。
悪気は無いんです。ノリコちゃんが可愛いだけなんです。彼女が好きなんです、はぃ。

文中で、ノリコちゃんが口走ったという「本音」の内容ですが、
恥ずかしいであるとか、怪しい内容ではないです。
普段はなかなか言えない彼女の本音。イザークさんもちょこっと話してますけど
離れ離れにされてしまって、ずっと不安だった彼女が漏らした本音…です。
内容はシリアスです、あくまでも。
…と、そこまで書いておきながら、ここでは全容を表記出来ないんです。
ご免なさーい<(_ _)>
夢霧 拝(06.03.29)
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