◆ 君につなぐ想い 37


「・・・だれなんだ?」

典子に向かいそう訊ねるイザークの顔には、翳りの色が見えていた。
徒ならぬその表情に、流石の典子の友人達も驚きの色を隠せないでいる。

「あ、あのですねっ、単なるクラスメートってだけですから、ね?ね?」

昌子が隣りの利恵にそう振る。利恵も慌てて頷いた。

「ええ、そうそう。別に典子が彼とどうこうって訳じゃないんですよ〜・・あはは・・・」
「そうなんです。典子は別に坂本なんて気にしてなかったから・・・ね?」

ひろみも頷きながら、そう告げた。

「それにあいつ確か、二組に付き合ってる彼女がいたんだよねっ」
「そうそう、二組の加奈子ちゃんっ!・・・・・・あ、・・・でも・・」
「確か、別れたって言ってなかったっけ?・・・彼女・・・・」

友人達は、三人とも顔を引き攣らせたまま見合わせる。

「ごめん、典子。なんかフォローになってないかも・・・」
「あ、でもイザークさん、典子と付き合ってたとかそんな事は絶対ありませんからっ!」

「もぉ。当たり前じゃない。付き合うも何も、あたしその人の顔もよく覚えてないくらいなのよ?・・」

皆の言う事を聞いていた典子が、困ったような顔でため息を吐きながらごちた。

「イザーク、本当にただ同じ教室で勉強する仲間だったってだけなの。今も顔もよく思い出せないし・・・
 話だって殆どした覚えがないの。女の子達とならよく話もしたけれど、他の男の子達とは数える程度 で・・・」
「・・・そうなのか?」

イザークに見つめられて典子は頷いた。


「あ、そうだっ!ねぇ典子、卒業アルバム見せてあげたら?あれに坂本も載ってるからっ」
「卒業アルバム?・・・でも、あたしは・・・」
「大丈夫よ、典子の写真もちゃんと載ってるんだから。おば様に訊いてみたら?」

ひろみと昌子の言葉を聞いて、典子の顔には若干複雑そうな色が浮かぶ。





「卒業アルバム?・・・あるわよ。何?・・見てみるの?」
「うん、ちょっと確かめたい人がいて・・・・」
「確かめたい人?・・・ふーん。今さっき廊下でのあなた達の話が聞こえてたけど、それと関係あり?」
「おっ、お母さん・・・」

二コリとしながらそう訊く母の言葉に複雑そうに頷きながらも、典子は、なんて耳聡いのだろう・・・と呆れた。
確かに彼女達の声は大きかったが・・・
そして父の方を見ると、その父もまたニヤリと返す。・・・知らずため息が漏れた。

「あったあった、これよ、典子」

和室の押入れの引き出しから、母は卒業アルバムを出してくる。それは典子自身も初めて見るものだ。
何せ二年の時に行方不明になっている。よもや卒業アルバムがあたるとは思ってもみなかったのだ。
居間のソファに座り、重厚に形取られたアルバムの表紙を典子は捲っていく。そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

「きゃあ、なんか随分懐かしい感じがするわ〜。ほんの数年前の事なのにねっ」
「ホントねぇ、あ、ほら、典子はここよ」
「え・・・――――」

利恵と昌子の声に、ノリコは見入る。順当に行けば三年へは持ち上がりになる筈だった。二年の時の級友達 --彼らはやや 成長していたが-- と共に典子の姿もそこにあった。もっとも典子だけは二年の時の写真を合成しているのだが。
感慨深い気持ちと、ほんの少しの複雑な気持ちとが綯い交ぜになる。そしてイザークも、典子の学生の時の姿をじっと黙って見ている。

「そして、こいつが坂本よ」
「え・・・」

ひろみの言葉に、典子はかの人の姿をまじまじと見つめた。

髪は耳がやや隠れる程度で、特別短くもないがそれほど長くもない。だが、上の方はたっぷりの髪がふさふさしており、前髪も長めだ。 そして、ややニヤッと笑ったその面持ちは、やんちゃで勝気な印象を感じさせた。詰襟の学生服もよく映えている。しかし・・・

「・・・こんな人、いたっけ?」

頭を捻り、記憶の底を掘り返すように一生懸命手繰ってみる。僅かな印象は思い出せるものの、典子にとっては、異世界で過ごした 日々の方が余程印象深い為なのか・・・やはり、この彼の事は何となく程度しか思い出せなかった。

「う〜ん・・・やっぱりあたし、この人とあんまり話した事なかった所為かなぁ、よく思い出せないよ」
「なるほど・・・うんうん。まあ〜無理ないかもね。この坂本って、二年の途中から編入してきた奴なのよね」
「そうそう。典子とダブっている期間って、ホントに僅かの間だったよね・・・」
「え・・・・そうなの?」

そういえば転入生がいたような・・・ だが、途端に典子は拍子抜けした。そんな短い期間でいったいどうやったら、 彼が自分を好きになるというのだろう。半ば強引ともとれる悪友達の話術に、典子は眩暈すら覚えた。

「でもさ、転校して来てすぐにクラスの雰囲気掴んじゃったのよね。そしてその僅かの間に彼ってば、ちゃっかり
 典子に目付けてたかもよぉ〜?」
「え・・もう昌子ったら・・どうしてそうなるのよぉ・・」

すっかりふざけモードの友人達に、苦笑してしまう。しかしイザークだけは、無表情のままアルバムのその顔をじっと見ている。

「それに、クラスの他の女の子にも人気があったのよね〜」
「うんうんっ」
「ふふふ。・・・あ、でね、この彼女が坂本と付き合ってた子よっ、加奈子ちゃん」

利恵の指差す子を典子は見つめた。隣りのクラスになってしまったが、一年の時の級友だったこの彼女の事を 典子は覚えていた。艶のある長い黒髪が印象的で、可愛らしい子だ。薄茶色に近い髪の典子は、彼女の黒髪に 憧れを抱いていた事もあったほどだ。

「加奈子ちゃん、久し振りに見るわ。そっか、彼女と付き合ってたっていうのね?」
「うん。坂本って結構社交的でさ、結構誰とでも友達になれるって言うか、相手を自分のペースに巻き込むの
 が上手いって言うか・・・加奈子ちゃんとも意気投合して付き合う事になったんだけど・・・ それって典子が行
 方不明になってから何ヶ月か後の話なんだよね・・・ いつも元気だった彼が、典子が いなくなってから急に
 静かになっちゃってさ・・・ むっつりしちゃって、暫く近づけない雰囲気だったのよ?」

「・・・え・・・またそんな事言うぅ・・・」

それを自分の所為だと思われても困る・・・ 益々典子は困惑する。

「でもさあ、もし仮に坂本が典子に気があったんだとしても、イザークさんには敵わないわよねぇ〜」
「あ、そうそう。それ絶対思う。やっぱり全然違うものっ」
「でも、何となく坂本の驚く顔も見てみたいわよねっ。ふふふ」

「もう、皆好きな事ばっかり言ってるし・・・勝手にあれこれ作り上げないで欲しいなぁ」

調子に乗って笑う彼女達の台詞に、典子は呆れた顔でごちた。

「うふふ、ごめんねぇ〜。という訳で、典子と彼とは何でもないですから、安心してくださいね」

ひろみが話掛けたが、イザークはずっと同じ表情のまま暫く何も言わず、

「・・・・・ああ」

と、ようやくそう短く答えただけだった。相変わらず翳りの消えぬイザークの表情に、ひろみ達はやや神妙な
面持ちになり、互いに顔を見合わせる。

「・・・・・じゃあ、ねぇ・・・そろそろあたし達・・・帰るね。おば様、おじ様、どうもご馳走様でした」
「え、帰るの?」
「うん・・・あたしもそろそろ・・・ね、典子、また電話するね。今度また会ってゆっくり話そ?」
「そうそう、同期会の正式な日とかさ、決まったら連絡するし。それまでは帰っちゃダメだよ、典子?」

そう言いながら慌てて帰ろうとする友人達に、典子は戸惑いつつも母と玄関まで見送りに出た。

「また遊びにいらしてね」

そう言葉を掛ける典子の母に、彼女達も礼を述べた。そして、

「じゃあ、イザークさん。あのぉ・・・余計な事言って・・・すみませんでした」
「あ、あたしも・・・あの、ごめんなさい」
「ホントに、すみません。典子は潔白ですからっ。これだけは保証出来ます。えへへ・・」

無言で典子の後方に立ったイザークに、彼女達は取り繕うように謝る。

「いや・・・」

言葉少なに返事をするイザークを、典子もまた心配そうに見上げた。
そして彼女達は挨拶をして、典子の家を後にしたのだった。





「・・・懐かしいもんだなァ・・・お嬢さんの高校時代か・・・」

居間に戻ると、父が卒業アルバムを広げていた。そしてその横には・・・

「あれ、これあたしのアルバム・・」

卒業アルバムの隣りには、典子の小さい時からの写真を収めたアルバムが置いてある。

「そうよ。せっかく卒業アルバム見たんだから、そのアルバムもイザークさんに見せてあげたら?」
「・・・・・・?」

イザークにはそれが何であるか判らず、不思議そうな顔をしている。父がイザークに手招きをした。

「ここに座って、見てみるといい。典子の小さい時からの記録だ。興味あるんじゃないか?」
「ノリコの・・・ちいさい・・とき・・・」

「え〜!?なんか恥ずかしいなぁ。変な写真まで取っておいてないでしょうねぇ?お父さん」
「はははっ・・典子が困るような写真を撮った覚えはないよ。それにイザークだって、写真という物を知って
 おくのも悪くない筈だ」

「・・・おとうさん・・?」

「君の世界には、こうやって記録を残す方法はないのだろう?・・それに撮影自体、写真を撮るのと変わらん。
 人物がどんな風に写るのかを知っておくのは、撮影の心積もりにもなるだろ?」

「・・・・・ええ・・」

若干の間をおいてイザークは返事をした。対象物を写真に収めるという記録の仕方自体、彼には未知の世界だ。 にわかには父の述べる事は消化し切れないが、ソファに腰掛けると、彼は手渡されたそのアルバムを開いてみた。

「・・っ!・・・・・これは・・」

中を見た途端、イザークは目を見張る。そこには典子の赤ん坊時代からの写真が収められていた。
イザーク自身、まさかこんな形で典子の幼少時の姿が見れるとは、考えもしなかった事だ。自分の知らない彼女の小さい時からの姿に、無言のままじっと見入ってしまう。

母親に抱っこされおくるみに包まれた、小さな赤ん坊の典子・・・
二〜三歳くらいのものだろうか、家の前で楽しそうに近所の子とままごとをしている典子・・・
父親の後ろからふざけて抱きついて、その首に手を回してご満悦の様子の典子・・・
そして、誕生日に撮ったものらしく、ケーキのクリームを口の周りにべっとり付けている姿は、
大きな瞳がくりっとしてて可愛らしく、口についたクリームを指で掠め取っている・・・
それがなんとも微笑ましい。そのあまりの可愛らしさに、イザークも、ふっ・・・と笑みを漏らすほどだ。

だが、何事かとそれを覗いた典子は、うわっ!という表情で真っ赤になる。クリームべっとりの写真もそうだが、その隣りにあった写真は、典子にとっては更に恥ずかしいものだった。

「やだーっ!イザークっこれ見ちゃダメっ!」

思わず手が出て、その写真を隠してしまう。当然ながら、イザークは典子の挙動に怪訝な顔を示した。

「なんでだ?・・・なぜかくす?」
「だ・・だってぇー・・・これは・・・」

しどろもどろで上手く言葉も継げない。典子が隠した写真とは、風呂上りにバスタオルを頭から被っているものと、着替えをする前の素っ裸のもので、畳んである衣類を手に取って広げているものだった。幾ら無邪気な小さい頃のものとはいえ、・・・なんだかやはり恥ずかしいと典子には思えてしまうのだ。

しかし既に結婚している身であるのに、何故今更そんなに、しかも子ども時代の写真を恥ずかしがるのだろうか。典子のあまりの慌てふためき振りに、流石のイザークも呆気に取られてしまう。

そしてこれは可笑しいと父と母は笑いこけ、バイト先から帰宅し正に両親が爆笑しているその場面を目の当たりにした典子の兄は、いったい何事かと目が点になった。

真っ赤になって何かを隠している妹、そしてそれを呆気に取られた顔で微動だにせず見つめる義理の弟、
そしてその傍で笑いこけている両親、更にその隣りで平和な表情で静かにお茶を啜る祖父・・・
そのアンバランスな取り合わせが、なんとも異様な光景に見えたとしても、仕方ない。

「・・・ああ〜、お帰り・・・くくくっ」

両親にそう言って迎えられたが、その二人は尚も笑いが止まらないらしく、目に涙まで浮かべていたほどだ。



「へぇ〜、アルバムを見ていたのか。でも何でそんなに真っ赤になってるんだ?典子は」
「えー?・・・だって・・・恥ずかしいんだもの・・・」

兄に訊かれ説明するも、最後の方は声が小さい。

「恥ずかしい?・・・あのなぁ、おまえイザークの女房なんだろうが?」
「ぅ・・・そうだよ・・・」
「所詮ガキの頃の格好だろ?旦那に見せるの恥ずかしがってどうするんだ。今更慌てて隠すモンでもない
 だろうがっ」
「ぅ・・・そりゃ・・・そうだけど・・・」

半ば呆れて言う兄に真っ赤になる典子だが、兄の言っている事は正論だ。典子にもそれは充分解かっているので、それ以上は何も言えない。・・・とんだ茶番だ。

「まったく・・・俺はイザークに同情するぜ・・・」

苦笑しながらイザークに振り、イザークもまた苦笑を漏らしながら、アルバムの続きを見ていった。
学校の入学式の写真、小学生の赤いランドセル、そして中学のセーラー服、そして・・・高校の卒業アルバムにも出ていた見覚えのある制服・・・

「これは・・・あのとき・・きてた、ふく・・だな・・・」
「え・・・あ、そうそう、高校の制服。・・・最初に樹海で着ていたものと同じよ」

恥ずかしさによる撃沈状態から少しだけ浮上した典子が、写真の制服を説明する。最初にイザークと典子が出会った樹海で彼女が着ていた高校の制服。だが、あの世界ではそれを着続ける訳にはいかず、イザークは自分の衣類を典子に着せ、その制服を地下水流の滝へと投げ込み、処分したのだった。

「すまなかったな・・・」
「え・・・なんでイザークが謝るの?」

急に謝られて、ノリコは笑顔のままきょとんとしている。理由はどうあれ、イザークが典子を助けた事実には変わりなく、あの世界で生きていく為にもそれは必要な行動だったのだ。制服は確かに思い出ではあるが、典子はこの事に関しては既に割り切っており、大して重要な事柄とは捉えていない。
無邪気で笑顔の典子にイザークはやや苦笑し、「・・・・いや・・」と、そう言うだけだった。



その後も、遠足や運動会、学園祭などの行事の写真を典子の説明を聞きながら見ていったのだが、次にページを捲った途端、イザークの表情が凍りついたように険しくなる。

「・・・・・・・なんだ・・これは・・・」

ようやく搾り出すように発したその言葉が、僅かながら震えている。
イザークの張り詰めた気配に典子も疑問に思いつつその写真を見、「あっ・・・」と小さく声を上げた。

「なんだ?何かあるのか?・・・・・なんだよ、水着じゃないか。これ、高校の水泳大会の時のだろ?典子」

何気ない言葉を発し写真を覗いた兄が、事もなげにそう言う。

「・・・みずぎ?・・・」

イザークの疑問の篭った声に、兄はやや暫くして、ああ〜という納得したような表情で言葉を続けた。

「そうか、イザークの世界には水着ってモンはないんだったよな」
「・・・うん・・・それに女の人は、人前では水に入って泳がないから・・・」

あっけらかんとして言う兄とは対照的に、典子は先ほどよりも更に神妙な面持ちになってしまっている。
ましてやイザークの表情は・・・やはり先ほどに輪を掛けてその表情は険しい。

「どういうことだ?」
「あ、・・・あのね、こっちでは、海とか・・・あと≪プール≫といって、水を溜めた大きなお風呂みたいなところで、
 夏になると泳いだり水遊びをする習慣があるの・・・水着は、その時に着る服なの・・・」
「およぐ・・・みんなで、いっしょにか?」
「・・・うん・・・男の子も、女の子も・・・一緒・・・」

男女が同じ場所で水浴するという言葉に、イザークは写真を見つめたまま黙り込んでしまった。

彼が見たその写真。兄が言うように高校の時の水泳大会のもので、体育担当の教師が生徒皆をそれぞれ写していったものだ。典子だけではなく、隣りにはひろみ、昌子、利恵・・・と仲良し同士で写っている。
だが事はそれだけではない。その写真の典子の隣りには、あろう事か、先ほど懸念の的となった男子生徒が共に写っていた。しかも典子の肩に手を置いている。
ただ、ずっとその場所にいて一緒に・・・というのではなく、どうもふざけて肩にポンと手を置き、ニヤリと笑って走り出そうとしている瞬間を撮られたものらしい。その所為で、肩に手を置かれた典子はビックリしてか、その彼の方を向いている。彼の視線もまた、悪戯っぽく彼女に向いていたのだ。やはりやんちゃな気質が、この人物にはあるらしい。

水着で、しかも傍にいた人物がかの男子で、しかも状況が状況なだけに、イザークが凍りつくのも無理はなかった。彼の手はぐっと握り締められている。

「へぇ〜、そう言えばこんな写真もあったわねぇ。この写真持って帰って来た時、あなたぷんぷんになってたのよ。
 せっかくの写真だったのに、横を向いてしまったから要らないってね。懐かしいわね」

暢気に笑いながら言う母に、典子も困った顔になる。そんな事懐かしがらなくても・・・と思ったが、今更だ。
アルバムには、学校でのものだけでなく、家族で行ったものだろうか・・・海での写真もあった。勿論それも水着だ。周りには他の海水浴客も見え、賑やかな様が伺える。

『ノリコ・・・』
「え・・・はいっ」

ずっと黙っていたイザークに不意に呼ばれた為ドキッとし、典子は姿勢を正して返事をした。
イザークの表情は、依然として厳しいままだ。

『この男は、おまえの恋人ではなかったのか?』
『・・・えっ、違うよ。さっき話した通りよ。あたしこっちでは恋人になった人は一人もいないもの・・・』

急に向こうの言葉で訊かれた為驚くが、典子もまた向こうの言葉で答える。そして、いきなり異世界語で会話を始めた二人に家族は多少驚いたものの、皆見守るように黙っていた。

『本当か?』
『うん、本当だよ。・・・信じて・・イザーク・・』

イザークの目は真剣に典子を捉えている。

『そうか・・・ ではもう一つ。・・・おまえのこの姿・・・他の男も見ていたんだな?』
『え・・・・あの・・・』
『海や、その≪ぷーる≫とかいう場所でも、他の男にこの姿を見られていたんだな?』

『イザーク・・・あの、落ち着いて。学校の≪みずぎ≫は指定された皆同じ物で、色気も素っ気もないやつだ
 し、海でだってそんな、確かに男の子達はいるだろうけど、誰もあたしの事なんて注目してないと思うよ。
 ・・・だって、この頃のあたし、体型だって貧弱で、それこそ色気も素っ気もなかったし・・・他にもっと可愛い
 子はたくさんいたし・・・』

典子の言葉に、イザークは深いため息を吐いた。苦しそうに眉根は寄り、歯噛みする。

『おまえは・・・何も解かっていない・・・』
『・・・イ・・ザーク・・・?』

『・・・おまえは、自分がどんなに男の目を惹き付けるか、全然解かっていない・・・ この頃のおまえだって、
 こんなに可愛い。まともな男が放っておく訳がないっ』
『えっ、えっ・・・イザークったら、そんな、買いかぶり過ぎだよー』

『ノリコっ!俺は!・・・』

典子の腕を掴み強引に引き寄せ、腕の中に閉じ込めるように抱きしめた。これには他の家族も仰天する。
イザークの表情から彼が怒っている様子は伝わるものの、会話の内容までは掴めぬ状況でのこの展開は・・・
だがそこは年長者たる余裕からだろうか、驚きながらも父と母はすぐに苦笑めいた表情をその顔に浮かべる。

『ちょっ・・・イザーク・・・?』

急なその行動に典子も驚いたが、しっかりと抱きしめられている為、彼の表情は窺えない。ただ、全身から怒りを含んだ感情がビリビリと伝わってくるのを感じた。

最早感情をコントロール出来る範疇を超えていた。頭に血が上り、周りに気を配る余裕もない。
それくらいに彼にとっては一大事だった。

『・・・見せたくない・・・』
『え・・・・・』
『おまえの肌を・・・他の誰にも・・・見せたくない・・・』
『・・・・・イザーク・・』


典子を抱きしめるイザークの言葉が、僅かながら震えていた・・・―――――





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初期の戯れ書きノートに書いておいたエピソードを手直ししてアップ。。
水着の話題自体は時節関係なく出来ますが、…でも泳がせたいなぁ〜(^-^;
イザークさんは怒ってるけど…泳がせたいなぁ〜(苦笑)
完全に時節と合わなくなりますが…是非泳がせたいなぁ〜。。(しつこい)
話の夏場面(時節ネタなのにズレてしまって申し訳ないですが)も考えていけたらと思います。

さて次回、場合によっては注意報かも…う〜ん。
次回分を書きながら考えます。すみません。
なるべく間空けないように書いていけたら良いのだけど…
二ヶ月に一度じゃ、ふざけるなですよね…(滝汗)
精進します。。orz

夢霧 拝(06.09.10)
背景変更(06.09.14)
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