天上より注ぎし至上の光 〜 Love Supreme 〜 10




いったい何をやっている・・・
何度俺は、こんな後悔を繰り返すんだ・・・




後悔しても仕方ない。だからこそ尚赦し難い。
甘んじていただけではないか。
くだらないものの上に胡坐を掻き、ただ甘んじていただけではないか。

己の甘さを思い知る。
迂闊だ・・・しかも最大にして最悪の――――
目が届かなかった故の失態。
何よりも護らねばならぬ存在であるのに。

何をやっている? 何をやってきた? いったい何を自覚していた?

これまでに何度、不安に駆られたことか・・・それこそ呆れるほど。
知らぬ者から見れば滑稽に過ぎんだろうその不安。
生きてきた世界が違うのだ。
消えるのか? 失いたくない。だが、もし失なってしまったらと・・・
だからこそ、己自身で護るべきであったのに・・・



しきたりがノリコを護ってくれたのかっ――――!?



・・・よくもあんな言葉が出たものだ。
しきたりの所為か。違う・・違うんだ・・・ 何処か疑問に抱きつつも結局は甘んじていた己の・・・ 

魔の力は消えた。確かに元凶は消え去った。
だからとて、この先が全て安寧であるとどうして断言出来る?
仇なすものとて、魔に限らない。



・・・思い出される、かつての忠告。



――――悟られるな、青年・・・ 己自身を見よ。



・・・しかも、それは忌々しいほど鮮明に。



――――この世界に在るとは即ちそういう事だ。
娘に限らぬ。そなたとて同じ。
心せよ、その肝に銘じよ。ゆめゆめ怠るではない。



・・・なんてことだ――――

ずっと共に行動してきた。
いつの間にか平素と何ら変わりなく、その存在が当然であるかのように、
そして・・・ それが、これからも続くのだと・・・――――
だが違う。全然違う。
戒めのあの言葉が、まるでこの瞬間初めて突きつけられたように鮮明に蘇り俺を嘲笑う。

今更だ。そんなこと、あいつの最初を知る俺には何よりも解かりきった事だ。
・・・解かりきった事、そう思っていた。・・だが・・・・・

不覚・・・ その解かりきっていた筈の事を、今再び思い知る・・・

それ故に腹が立つ、何より己自身に。
この存在の全て・・それが・・赦し難い・・・――――






――――

――――――

降り頻る雨の音は、耳障りなほど闇夜に響き・・・
瞬時の光と雷鳴とは、森の怒りを象徴するが如く煌き、咆哮する。
そして、更なる森の声がその存在を顕にした。



・・・去レ・・・去レ・・・ 何人タリトモ・・・此ノ地ヘ入ルコト・・・罷リ成ラヌ・・・



立ちはだかるかの森より聞こえてくる、厳たる声。
漂う気は決して禍々しいものではない。
なのに、悲鳴、嘆き、怒り・・・
戒に叛く侵入者を排除せんとする、その気配が凄まじい。
留まるところを知らぬ。渦巻く。突き刺さる。



去レ・・・ 最早・・我等ハ人ヲ赦サヌ・・・ 去レ・・・去レ・・・!!



「生憎だが、去る訳にはいかん」

森を前にし、初めて己の意思を声にした。無論イザークに追従の意思はない。
だからとて森を焼失させるつもりもない。
常人ならば、恐らく正気ではいられぬであろう森からの重圧。
しかしながら彼の表情その瞳の輝きに、迷い恐れは見られない。

・・・森からの響きは尚も、去れ、去れ・・・と繰り返し木霊する。



――――傍にいるよ・・・ いつも、いつも・・・



脳裏に蘇る――― 繊細で透明・・・そして、美しい旋律を奏でるかのようなその声・・・
それはいつも耳に心地良く、希望と勇気を与えてくれていた。

「・・・・・」

眼前の森を見据えつつも、記憶の腑に染み込んだ最愛人(さいあいびと)の姿をその言葉を反芻し目を細めた。




・・・ノリコ・・

意にそぐわず背負わされた運命に因って、おまえはこの世界に飛ばされた。
だがそれに押し潰されることなくこんな俺を慕い、過酷な宿命と、俺の傍にいる事を受け入れた。
時に己を犠牲にするも厭わず、無償の愛を示してくれた。
おまえが俺にくれたもの・・・この身に沁みて余りある・・・ そして尚、尊い・・・

・・・元の世界の家族にすぐにでも逢いたいだろう。
しかし還るよりも、この世界で俺と共に生きることをおまえは選んだ。



――――傍にいるよ・・・ いつまでも、あなたが望む限り・・・
    あたしは還らない・・・あなたの傍にいたい・・・ いさせて・・・ お願い・・・イザーク・・・



そんなおまえの為にも、そして逢いたくてもそれが叶わぬおまえの家族の為にも、
俺はここで退く訳にはいかん。

かつて【目覚め】を狙う輩より護ってきた時と何ら変わることはない。
一切の迷いを断ち切り・・・共に生きると、そして、生涯の伴侶はおまえ以外にはなしと決めたあの日・・・
この世界のあらゆるものからおまえを護っていくのだと改めて銘じた。

護りたい。護りたいのだ。
もしもあいつを失えば・・・俺は・・・ 俺で在り続ける自信が持てない。
・・・何を希に生きていく?・・・何を拠所とする? ・・・あいつのいない世界など・・最早俺には・・・

この世界にあいつが留まるのがどういうことか。
解かっている・・・ それでも手放したくない。護りたいんだ。
世迷言か。滑稽か。情けないか。
それこそ笑止―――!
何がいかんという。
愛する者を知った・・・それを欲して何が悪い。
大切な者を護ろうとして何を咎められるのだ。
護りたいのだ。失いたくはないのだ。
笑いたければ笑うがいい。

あいつは・・・ ノリコは・・・
俺にとって半身、二度とは得られぬ半身・・・
だからこそ・・・

もう誰にも邪魔はさせん。何者が阻もうと関係ない。
あいつを護る。何が何でもあいつを取り戻す。



――――森を侮るなッ! イザーク!!



カイザックの言葉・・・ 瞬間ピクリと震える。
瞑目し息をついた。・・・だが、

「・・・元より、覚悟の上」

開かれた瞳は再びかの森を鋭く捉える。


その心中己を赦し難いほど滾っていたが、森に対するイザークの思いは、逆に意外なほどの鎮まりを見せていた。
目的はただ一つ、何ら森に支障来たすことなく確実に越える事・・・
そうすれば自ずと先は見えてくる筈だ。山の険しさ、そしてたとえ獰猛なる獣の類であれ、イザークを阻むものとはならない。

だが、今眼前に立ちはだかる森の存在・・・これが最大の難関と言えるだろう。カイザックの忠告はダテではない。
イザークにもそれは充分解かっていた。



一歩も退こうとせぬその姿に森はざわめき始める。声とも呻きともつかぬような音が周辺に鳴り渡る。
更には・・・
ヒュンッ―――・・・ ビシッ―――・・・ ピシッ―――・・・
身を弾き翻弄するかの如く、風筋が幾度もイザークの横を煽っていく。
一帯に渦巻く重圧感・・・ 恐らく森に在る精霊全ての声であろう。
頭の中に直に響いて来るそれがイザークを攪乱せんと嘲笑う。・・・生々しく・・酷く重い。

「・・・・・」

僅かにその眉を顰めた。



去レ・・去レ・・・ ソレトモ、其ノ命棄テルカ・・・ 愚カニモ棄テルカッ・・・――――!!



一際轟く声。その刹那、鋭い気が風と共にイザークに襲い掛かる。

「・・・っ!」

しかし防御せず、イザークはそれを真っ向から受けた。

!!――――何かが切り裂かれる音。時同じくして、闇に紅いものが飛散する。

・・・僅かに口元が歪む。



森の怒りは真空の刃の如くイザークの右腕を捉えた。血が皮膚を伝い袖を紅くする。
精霊達の声は尚も、去れ・・・去れ・・・と繰り返し威嚇する。

「・・・最初に言った筈だ、去るつもりはない。ここを押し通る」

再び森にざわめきが起こる。風がイザークの髪を煽っては吹いていく。
だが、彼は揺るがない。その瞳に一点の曇りなく森を捉える。

「・・・皮肉なものだ。忌々しいとしか思えなかったこの身体、今は寧ろ有難いとさえ思える。
 お陰で、この森を越える事が出来る」

イザークの言う≪皮肉≫―――傷の浅い部分に於いては既に治癒が進み、痕跡さえも消えかけている。
この類稀なる治癒力故に、かつて彼は人に非ずと恐れられたのだ。
どれほどにそれを厭い、そして苦しんだことか。・・・だが、今は・・・――――



森の気が一層険しく尖るのを感じながら、歩を進める。
一刻も早く、この森を抜けねばならない。躊躇いという言葉はそこにはなかった。

「俺を斬りたければ幾らでも斬り刻むがいい。それが人への、そして俺への制裁ならば、喜んで受けよう」



クッ・・ 笑止ッ――――!!



声と共に森全体の気が一気に膨れ上がる。
幾筋もの気の刃となったそれが、風と共に再度イザークを襲った。

――――――ッ!!!


未だ止まぬ雨に交じり、肉を斬り裂く幾つもの音が周辺に響き渡った・・・









――――

―――――漂う血の匂い。



何故・・・ 何故・・・



そして、聞こえる精霊達の声。



「・・・く・・っ」

奥歯を噛みしめた。

その表情が苦痛に歪む。それでもイザークは倒れることなく、その場に立ち続けた。
無惨にも衣服は切り裂かれ、無数の傷からの出血がその残骸を鮮やかな紅へと染めていく。
皮膚を伝う雨が、流れる血と共に地面へと滴り落ちた。



何故・・・ 何故・・・ ナニ・・ユ・・エ・・・



繰り返される、何故・・・何故・・・という声。
深手を負っても尚変わらぬ揺るぎなき眼で見据えるイザークに、森は明らかに動揺の気配を漂わせる。
更に・・・



――― 何故・・・ 何故二平静デイラレル・・・ ソウマデシテ、ソナタ・・何ヲ求メル・・・ ―――



「・・・っ」

それまでの森の声とは別に、新たに聞こえてきたその『声』。
更なる威厳を感じさせる重厚な響き・・・ 先ほどまでの森からのそれとは明らかに異なっていた。
厳しい表情のままイザークはその声を聴く。



――― 此方ノ戒、知リ得テオロウ・・・ ナノニ・・・傷付ク事ヲ甘受シ、
    禁忌ノ森ヲ越エル覚悟ヲ以テシテマデ・・・ ソナタハ、何ヲ求メル・・・ ―――



「・・・平気ではない、傷を負えば痛みも走る。・・・だが、」

問いに答える途中瞑目する。改めてしっかりと眼を開き、再び森を見据えた。

「だが・・・あいつを失う痛みには絶対に代えられん・・・ 俺が求めるのはノリコだけだ、ノリコを取り戻したい・・・」

その心中、静かに燃え上がる想いからか・・・
蒼白く燃える光がさながらオーラのようにイザークの身体から湧き上がり、彼を包んでいた。



――― ・・・・・・取リ戻ス ―――



ざわめく。・・・ノリコ・・・ノリコ・・・ 取り戻す・・・取り戻す・・・と、精霊達の声が辺りに木霊した。



――― ソナタヨリ感ズル思念・・・内在セシ凄マジキ力・・・ 成ル程、目覚メラレシ其ノ者カ・・・ ―――



「・・・・・」



――― カノ娘ヲ取リ戻スト・・・故二傷付クモ厭ワヌト謂ウカ・・・ ―――



「・・・あいつを失う訳にはいかない・・・ 俺は諦めん・・ノリコを返して貰う」



――― ・・・・・・ ―――



「確かに、ノリコを連れ去り禁に叛きここを通ったのはあの男達だ。しかし、探ろうとしたノリコの気配がまるで
 霞に隠されたように曇り掴めなかったのは、この森の結界に阻まれていた為でもあろう・・・ 違うか?」



再び沈黙が訪れた。――――そして暫しの後、



――― ・・・フ・・フフフ・・・ ―――



「・・・!?」

微笑う。正にその表現が妥当と言える声がした。――――森の気配に変化の兆し・・・
その急速な気の変化をつぶさに感じ取ったイザークは、怪訝な表情を浮かべ再び身構えた。



――― ・・・人トハ愚カナ生キ物ヨ・・・ 時ニ物欲ニ駆ラレ、同族ヲ危ブム・・・先ノ男達ガ然リ・・・
    サレド・・・時ニ己ヲ顧ミズ、同族ヲ救ワントスル・・・ 其ノ想イタルヤ、深ク計リ知レヌ・・・ ―――



「・・・・・」



――― 見上ゲタ心掛ケヨ・・・ カノ娘モマタ、此ノ世界ニ生キル覚悟ヲ顕ニシタ・・・ ―――



「・・・ぇ」



――― ソナタガ為二生キ、ソナタガ為ニ世界の礎ニナルト・・・ フ・・・ 覚悟ガ無クバ、
    此ノ世界ニ於イテ彼方ノ娘ハ生キラレヌ・・・ 誠、健気・・・且ツ、気高キ覚悟ヨ・・・―――



そして声の直後、イザークの眼前に眩い光が溢れた。

「っ・・・!?」


それは真昼を思わせるほど、眩く・・・・・…


僅かに目を細め見据えた先に、蒼白く光を放つ二本の筋が森の深部に向けまっすぐに伸びていくのが見えた。

「・・・これは・・」



――― 強大ナル力ヲ抱キシ者ヨ・・・ 力ガ全テニ非ズトソナタハ知リ得テオロウ・・・
    カノ娘モマタ、其ノ身ノ内ニ底知レヌ力ヲ持ツ・・・
    己ニ力無キト遜ルガ・・・ タダ、己ヲ知ラヌト謂ウニ過ギヌ・・・ ―――



目の前に出現した光の筋。さながら道標のような・・・
そしてそれは、遥か後方にそびえる黒き山まで続いているようだった。



――― 力無キ者ニ内在セシモノ・・・其レコソ底知レヌ・・・ ソナタモ存分心得テオロウ・・・
    ソナタヲ此処マデ揺サブリシ想イヲ抱ク・・・ 而シテ・・・ソナタモマタ・・・同様・・・ ―――



その声を、イザークは黙ったまま聴いた。先ほどまで漂っていた気配とそれはまるで違っており、 怒りに溢れていたのが嘘であったかの如く今は穏やかだ。内心の驚きは隠せず、尚も怪訝な表情を向けた。



――― ・・・行クガ良イ ―――



「っ・・!?」

その言葉に更に目を見張った。・・・森が≪通れ≫と言う。



――― 命ヲ賭シテ此方ヲ越エントスル覚悟、見事ダ・・・ 礼讃ノ念ヲ禁ジエヌ・・・ ―――



「・・・・・」



――― 示サレシ標ニ従イ行ケ・・・ サスレバ、ソナタガ求メシ者ノ許ヘト・・・導カレル・・・ ―――



「感謝する」

森の柔軟なる変化、そしてその声に驚愕しつつも、すぐにイザークは謝意を示した。



――― ソナタヲ傷付ケシ我等ヲ、恨ムカ・・・ ソナタナラバ、此方ヲ滅スルモ可能デアロウ・・・ ―――



「無用の振舞いだ。森への恨みもない。ノリコを取り戻せるのなら、それ以上は望まん」




そしてイザークは森の中へと足を踏み入れた。
光の道標に従い、後方のレイズ山のみを目指し駆ける。




俺の最大のダメージ・・・それは・・・

・・・それは・・・ ノリコを失うことだ・・・――――





――― 潔キ者ヨ・・・ サレド・・心スルガ良イ・・・ 此度ノミゾ・・・ ―――



此度のみ、此度のみぞ・・・と声が言う。
樹、風、水、そして光を司る精霊達の声もまた、重なり取り巻くように木霊した。











・・・雨音が聞こえてくる。


「ぅ・・・」

何処かに打ちつける雨の気配で、ノリコはうっすらと瞼を上げた。
だが、灯りのない場所なのだろうか・・・暗くて何も見えない。更にどういう訳か、頭が酷く病んだ。
辺りには何か香を燃したような匂いが僅かに漂っていた。

(・・・暗い・・・ここは・・・)

声を発しようとするが、口元の不自然さにすぐに気付く。

(ぅ・・・?)

口に布を咬ませられている。更に、身体を動かそうにも自由が利かない。
何かで手足を縛られているようだ。

(な・・に・・・これは・・・)


(・・・いったいこれは・・・どうして・・こんな・・・)

痛む頭で懸命に思い出す。

(・・・あたし・・・ そうだ・・・確かあの時、街の通りで声を掛けられて・・・ それから馬車の所まで案内されて・・・)

迎えの馬車に乗り込んだ途端強烈な甘い匂いに包まれ不審に感ずるも、すぐに記憶が途切れたのだった。

(あの強い香り・・・ それから後は・・・)

思い出そうと額を伏せた。しかし、いたずらに頭痛に襲われるだけで何も思い出せない。

(・・・解からない・・・ あたし・・眠っていたの?・・・)

頭を何とか持ち上げた。相変わらず暗くて何も見えない。だが、雨の音はさっきから忙しなく聞こえてくる。
相当量降っているようで、時折不意打ちのように轟く雷鳴に身が竦む。

(雷雨・・・凄い音・・・なのに、変だ・・・光らないのは何故?・・・ここには窓がないの?・・・)

周りを見渡すもやはり確認は出来なかった。


(・・・ぁ・・)

頭の中でいろんな事がぐるぐる回り、混乱を覚えた。
婚姻の祝福を伝えたいからと連れてこられたのだ。それが何故こんな扱いを受けるのか・・・
しかしながら、彼等より向けられた悪心の真意をノリコに量れるであろう筈もなかった。

本当は何の為に・・・
こんな風に自由を奪われ、自分はこれからどうなってしまうのか・・・

・・・そして・・・… 無防備たる自分。それを同時に思い知る。

(あの人・・・そんな悪い感じの人には見えなかった・・・ どうして・・・)

あの人の言葉を信じた。祝辞を述べたいというその好意に対し、どうして疑いを持てようか・・・
だが、あの時あの人について行かなければ、少なくともこんな事態になるのを避けられたかもしれない。

・・・なんたる事だろうか・・・――――そのことにただ愕然となる。

謂れのない悪心、たとえそれが自分には全く非がないのだとしても、婚礼の前日にこんな事態になっていること自体が信じられず、許せなかった。 ・・・いや・・・果たして今日は『前日』なのか、それすらもはっきりしないではないか。もしかしたら長く眠らされていたのかもしれない。もう既に婚礼の日は過ぎてしまったのかも・・・
そこまで考えた時、ぶるりと震えが走った。
ここが花の町であるのかも不明だ。もしかしたらかの世界ではなく、何処か違う次元のひずみに陥ってしまったとか・・・ そんな疑問まで浮かび慄く。 まさか・・・元の世界に戻された訳では・・・ まさか・・・

次々と不安が浮かび、ノリコを苛んでいく。明るい事を考えようにも、あまりにも暗いその場所は、ノリコの心を打ちのめすのには充分過ぎた。

雨は、変わらず降り続いている。



(・・・・・・今は何時なのだろう・・・皆はどうしているだろう・・・あたしがいなくなって皆は・・・)

鉛のように身体が重い・・・ しかしこのまま甘んじている訳にはいかない。
自分の無用心でこんな事になったのだ。この場所から抜け出さなくてはと、ノリコは考えた。

(何とか縄を解かなくちゃ・・・ ここが何処かは解からない・・けど、何とかして・・皆の所に戻らなきゃ・・・)

感覚を頼りに手首の縄を解こうと腕を動かす。・・・しかし、

「うっ・・・」

咄嗟に瞑目する。――――ちりりと走った鋭い痛み・・・ 縄の繊維で肌を傷つけてしまったようだ。
手首に食い込む縄にはほんの少しのゆとりもなく、ナイフでもなければ解くのは至難の業だった。

(ぁ・・・)

縄を解くのは不可能なのか・・・ ノリコは頭痛に眉を顰めながらも、何度も頭を振り、逃げる方法を探った。

(出入口・・・何処かに扉は・・・)

扉を見つければ何とか・・・ 足が駄目なら這ってでも、手が駄目なら口で咥えてでも取っ手を開けよう。
ノリコは目を凝らしてその部屋の扉を探した。

(・・・・おかしい・・どうして・・・?)

あれからかなりの時間を経ている。とっくに目が慣れてもいい筈なのに、目の前に拡がるのは闇だけで何処に扉があるのか解からない。

「・・・・・」

・・・それでも探さなくては。這っていればいずれ壁に突き当たる。壁伝いに行けば扉だってきっと見つかる筈だ。
後手に縛られている為、自由は利かない。単なる匍匐前進よりも始末が悪いが、それを憂いている暇など無論ある筈もない。
何処かは解からない、だけど、ここを出さえすればきっと――――



「・・・く・・」

懸命に床を這った。その為身体を包んでいた布は外れ、衣服も砂や埃で汚れてしまっていた。長い髪が邪魔になり大して進めないのが歯痒いことこの上ない。 更に運の悪いことに、あの男達が無造作に退けた木箱に足を取られてしまい、積まれていたそれが音を立てて崩れノリコの脚の上に落ちてきた。

「・・・うっぐ!!」

闇の中での突然の痛み。空箱といえど決して軽くはないそれが足を直撃したのだ。だが何に躓いたのかさえ、ノリコには判らない。 動きを阻まれつんのめった際、顔が床に接触した。

頬にざらりと感じる砂埃・・・
身体の下の冷たい床板の感触・・・

震えがくる。寒さもまたその華奢な身に堪えた。宵であるのと降り頻る雨とが気温を下げていたのだ。
更に時折鳴り渡る雷。前触れなくというのが余計に堪えた。
そして、いつまで経っても闇に目が慣れてこないのもノリコの不安に拍車を掛けた。

ここはそんなに暗闇なのか・・・? 叩き付ける雨の音・・・窓に当たっているように聞こえるのは錯覚なのか・・・?


しかし、ノリコが今いる部屋の状況を正確に表現するなら・・・そこは真の暗闇ではなかった。
ノリコが訝った通り窓は確かに存在する。雨はその硝子にも叩き付けていた。 そして雷光も本来ならば見える筈なのだ。それでもノリコにはそれを見る事が出来なかった。眼前に広がるそれは、何処までも『闇』だ。


「ぅ・・・」

――――洩れる嗚咽。

・・・限界だった。泣いては駄目、泣くものかと思えば思うほど目に涙が滲み、嗚咽が洩れる。
何とか自力で・・・その思いは空しく時ばかりが過ぎていく。悔しさと自責の念が込み上げた。

ここはイザークがいる同じ世界なのだろうか・・・ 最初はそんな確証もなかった為に、≪呼べなかった≫。
自分の所為で皆に心配を掛けている。迷惑だって掛けてしまっているだろう。だからこそ何とか自分でここを・・・
そう考えたのだ。

だが・・・

(・・・ご免・・なさい・・・・ぅ・・・う・・・)

限界が苛む。確証は今もない。色んな事が交錯し、嘲笑うようにぐるぐると駆け巡る。

(・・・イザーク・・・ イザーク・・・ ご免・・なさい・・・・・)



(・・・ィ・・ザーク・・・・・ぅ・・・)

愛しいその人の名を、遂にノリコは・・・心に浮かべた。







―――― ・・・ィ・・ザーク・・・・ ――――


「っ・・・!!」

森を走っていたイザークの足が弾かれたように止まった。聞こえてきたその思念に目を見張る。

「・・・ノリコの・・声・・・・」

再び走り出す。その手には途中拾った薬草の束が握られていた。


――――癒シ・・与エヨ・・・ 其ノ実ヲ噛ミ砕キ、カノ娘ニ与エルガ良イ・・・


森の声の指示により、都度光が示した場所のそれを、走りながら摘み取ったものだ。


(ノリコッ! 聞こえるか、ノリコッ!)

更に走りつつ呼び掛けた。




―――― ノリコッ! ――――


ビクッ・・・!

聞こえた声に、ノリコは驚き顔を上げた。

(・・・イザークの・・声・・ イザーク・・・ぁ・・・)

涙が滲む。

(イザークっ!)




―――― ・・・イザークっ! ――――


「ノリコッ!」

思念が通じた。そのことでより彼女の気配を感じる事が出来る。

(ノリコ、よく聞け。今そこに向かっているッ)




一番聞きたかったその声に涙が溢れた。勿論流れる涙を拭う事など出来ない。そのままでノリコは何度も頷いた。


―――― 大丈夫か、怪我はないか? ――――


イザークの問いに、一瞬答えるのを躊躇する。身体のあちこちに痛みはあるが・・・

(・・・大丈夫・・・少し・・頭が痛むだけ・・・大した事・・ない・・・)

これ以上心配させたくない為に嘘をついた。イザークと同じ世界にいるのだ。イザークが助けに来てくれるのだ。
それだけで充分だった。

だが・・・

(・・・ノリコ・・)

やはりノリコの様子がおかしい・・・―――― 走りながらイザークは感じていた。
大丈夫だと告げるその声には、いつもの彼女の覇気が感じられない。
急がねば――――!! 思念が通じたことで一層その思いを強めた。

森を抜け切り、増水した渓流そして谷を飛び越え、滑りそうな大岩も切立った崖もモノともせず跳躍で駆け上がる。険しいレイズ山の道なき道を疾走した。




ウゥゥゥオォォォォーーーーーオォォォーーーー・・・・

獣のものと思しき不気味な咆哮・・・


山に入った時より僅かに聞こえていたそれが、気配と共に近付いて来ていた。そして、突如一頭の獣が樹木の間からイザークの前に現れたかと思うと、その他の獣達も次々とその姿を見せた。

「・・・なるほど、おまえ達がそうか・・」

獣の身の丈は、イザークを軽く凌ぐほどだった。身体中を毛に覆われ顔かたちは熊のようにも見える。だが複数の尾と腕を持つそれは、最早熊とは言えない。人の匂いを嗅ぎ付けた獣達は、皆その口から牙を覗かせ涎を垂らしグルグルと唸りを上げている。

イザークの髪が蒼白く光り、それ自体が力あるものにようにふわりと靡く。瞳孔は鋭く尖り、獣達を凝視する。

「折角だが、おまえ達の相手をしている暇はない。俺とノリコに近付くなっ!!」

イザークの身体から力の波動が生じ、獣達を威嚇する。その鋭い気に獣達のあるものは竦んだが、あるものは襲い掛かってきた。 だが、イザークは更に威嚇の遠当てを放つ。直撃を受けずともその威力と風は凄まじく、少なからぬ獣達がその衝撃で弾き飛ばされた。 周辺の樹々や草は余波に激しく揺さぶられ、獣達の悲鳴が更に辺りに響き渡る。

「命まで取ろうとは思わん、行けッ!」

カッと見開かれた瞳。漲るその波動に最早立つ瀬なしと竦んだか、獣達は次々身を翻し逃げていった。それを見届ける間も惜しむかの如く、イザークはノリコが囚われている山小屋の方角へと再び急いだ。




雷は既に付近を越えてしまったのか、遠く僅かに聞こえるだけだ。雨もその勢いを弱め、小降りになりつつあった。
ノリコの気配を頼りに林の間を走り進めて行くと、不意に開けた場所へと出、目的のそれを発見した。周辺一帯大木を切り倒したと思しき切り株、そしてその中央の整地された場所に山小屋が建っている。小屋だと言われていたが、その佇まいは存外立派だ。

「ここか・・」

小屋の入口を探し、見出した扉に駆け寄った。が、やはり鍵が掛かっている。常人の力では取っ手はビクともしない。

「くっ・・」

この小屋の中に確実にノリコの気配があるのだ。逸る気持ちに、取っ手を掴む手に力を込め錠諸共破壊した。
中に入ると広間のような大きな部屋、そして奥の方に扉が見えた。その向こうから漂う気配を察知する。イザークは迷わずその扉を開けた。 するとそこには廊下があり、壁に沿って更に幾つかの扉があった。

「あそこかッ」

他の扉には目もくれずイザークは一番奥にある扉に走り寄った。迷うまでもない。他の部屋とは違いその扉だけは頑丈な造りで、更に錠の他に幾重にも鎖が掛けられている。この中にノリコがいるに違いなかった。

「ノリコッ!!」




(ぁ・・イザーク・・・っ)


ノリコにも近付くイザークの気配が解かっていた。だが叫びたくてもそれが叶わない。

(イザークっ、あたしここっ・・・でも・・布を咬ませられてて、声が出せないのっ)

ノリコの思念を感じ取る。部屋の中のノリコの位置を素早く察知し、イザークは扉に両手を当てた。

「待ってろノリコッ、この扉を破壊する!!」

その両手にあらん限りの気を加えた。
これまでその身の内に留めてきた想い、そして怒りの全てを込めて――――

「うおおぉぉぉぉーーーーーッ!!!」

バリッ!!バキバキバキッ!!!・・・凄まじい音を立てその扉は崩れ落ちた。立ち込める埃の中、すぐに新鮮な空気が風と共に入り込む。

薄暗くはあったが、夜目の利くイザークは素早くノリコの位置を見極めた。その足元に散乱している木箱。後手に縛られ辛うじて顔を持ち上げた状態でノリコはこちらを見つめていた。口には確かに布が咬ませられている。しかもその目から涙を溢れさせ・・・!!

「ノリコッ!」

素早く駆け寄り、ノリコの足を下敷きにしている木箱を退けた。

「待ってろ、すぐに縄を解くからなッ!」

自由を奪っていた縄を解き、口に咬ませられていた布を取り除いた。口元が解放されたノリコは激しく咽ぶ。しかも長いこと無理な体勢を強いられていた為、思い通りにならない身体は軋み戦慄いた。
イザークは棚の上に置かれていたランプに気付き、気を送り火を点した。そして注意深くノリコの身体を支え、その顔を窺った。

「ノリコ、ノリコ」
「・・・イ・・ザーク・・」

ようやく顔を上げ、ノリコはイザークを見つめた。・・・だが、

「・・・ぁ」
「恐かったろう、だがもう大丈夫だ。安心しろ」

気遣う呼び掛けにも関わらず、イザークを見つめるノリコの表情が何処かおかしい。その瞳は焦点が合ってないかのように虚ろである。半分横たえていた状態の軋む身を鞭打つように起こし、ノリコは、探るように確かめるようにイザークの腕に下から触れていく。

「イザー・・ク・・・イザーク・・なのね?・・・本当に・・・そこに・・いる・・のね?・・・」
「ノリコ・・・どうした?」
「お願い、すぐに・・灯りを点けて・・」
「な・・・」

その言葉にイザークは目を見張る。灯りならたった今しがた点けたばかりだ。なのに・・・
だが、ノリコの瞳孔は薄い膜が張っているかのように曇っている。それはイザークにもはっきりと解かった。

「ノリコ・・・おまえ・・」
「窓がないの・・・何処かの部屋だというのは解かるの・・・でも真っ暗で、見えない・・・何も・・・・・」

イザークの腕を掴み、その顔を見上げ更に請う。目にはやはり涙が溢れていた。

「幾ら時間が経っても、目が慣れてこないの・・・ あなたの顔が見えない・・・折角・・逢えたのに・・・」
「ノリコ・・・」

「ここは・・そんなに暗い所なの? あなたの顔が・・見えないよイザーク・・・おね・・がっ・・・・・・」


ぴくりと震える――――
唇に何か温かいものが触れ、ノリコの言葉は遮られた。
放心し小さく戦慄く唇に、更にもう一度それが触れ、重なる・・・

触れたのがイザークの唇だと把握出来るまでに、少しの時を要した。
その嫋やかな身体を、逞しい腕が優しくそしてしっかりと抱きしめた。


「ぁ・・・」
「大丈夫だ・・・落ち着け、ノリコ」
「・・・イザ・・ク」
「部屋の照明は既に点した」

腕の中のノリコが微かに身動ぐ。伝えられた事実に少なからぬ衝撃を受けた。

「見えないのは奴等に嗅がされた薬の作用に因るものだ・・・時が経てば必ずまた見える、大丈夫だ・・」

抱きしめたまま、安心させるように告げた。ノリコも目を見開いたまま、その言葉を聞いた。

薬の所為・・・ ああ、それで目がいつまでも闇に慣れなかったのか・・・ イザークの言葉にノリコは納得がいった。
だが、見えなくともイザークの気配ははっきり解かる。何よりも今こうして傍にいてくれている。
『闇』である理由が判明しイザークがいる事に安心し、ノリコはだるい腕をよろよろとイザークの背に回した。だがその途端、 イザークが上半身に何も纏っていないという事に気付く。更に破れている衣服の端に手が触れ、驚いて少し身を離しイザークの胸に手を添え、仰ぎ見る。

「イザーク・・・服は?・・・こんな、破れて・・・どうして・・・?」

ノリコの問いの言葉に、ここへ来る途中での出来事が蘇る。ガイアスの森での負傷がまるで夢であったかのように、身体の傷は跡形もなく消えている。が、無論衣服は元通りにはならない。

「心配するな、途中ガイアスの森を通った所為だ」
「ガイアスの・・森・・?」
「ここはレイズ山。ガイアスの森を越えた地にある」
「あの森を、通った?・・・だけど・・・あそこは・・・」

あの森は、男の人は通れない筈・・・ それに、服がこんなに破れているというのは・・・ まさか・・・
イザークの腕に、その胸元に、そして頬にノリコはもう一度触れた。さっきは気付かなかった微かな血臭に愕然とする。 大部分が雨に流されたとはいえ、その匂いはまだ微かに残っていたのだ。

「血の匂い・・・ まさか・・怪我を? イザーク、怪我を?・・・あ・・・」

目にはまた涙が溢れている。ノリコの頬に触れ、その涙を指で拭いながら微笑う。

「過ぎた事だ。それに森は俺の望みを理解し通してくれた。だからこうしてノリコを助けに来れたんだ」
「イザーク・・・」
「既に傷は癒えている。安心していい・・」
「・・・ご免なさい・・・ご免なさい・・・あたしの・・所為で・・・ あたしが・・・あたしが・・・」
「ノリコ」

泣き崩れ震える身体をもう一度抱きしめた。

「おまえが謝る事じゃない・・」
「でも・・・でも・・・」
「おまえの所為じゃないんだ・・」



俺の最大のダメージ・・・



「俺の事はいい。おまえの・・・手当ての方が大事だ」
「イザーク・・」
「傷を見せろ」



おまえを失うくらいなら・・・いっそ・・・


死んだ方がマシだ――――




―――――・・・


頬に触れている大きな手の温かさ・・・ そして、顎に添えられた手・・・
きっと自分を見つめてくれているのだと・・・思う。
こんなに近くにいるのに・・・大好きなその人の姿を見られない・・・ ただ、もどかしさが募る・・・

「ここに来る途中森の中で薬草を摘んだ。森の声に従い摘んだ物だ・・」

イザークの言葉に、忘れていた身体のだるさが蘇る。放心したまま、震える手を痛む両肩に添える・・・

「身を起こしているのも辛い筈だ・・・我慢しなくてもいい・・・」
「・・・ぁ」

その言葉が身に沁みる・・・ 肩と背、そして傷付いた手首・・・それだけではない、頭、腕、足・・・およそ全身が悲鳴を上げている・・・  イザークが察した通りだ。この体勢でいるのは、もう限界だった。暗闇の中、何とか自身で脱出しようと張り詰めていたものが、綻ぶようにゆるゆると解け崩れていく・・・

「ノリコ・・・」

震える身を保てず撓垂れるノリコの身体を、イザークはしっかりと受け止めた。
伝わってくる身体の冷たさ・・・ 身を引き裂かれるほどに切ない。再び己への怒りが蘇り、ノリコの身体を温めるように抱きしめた。

伝わってくるイザークの温もりに唇が震える・・・
寒かった・・・ 本当は、恐くてとても心細かったのだ。もう二度と会えないのではないかと不安に駆られ、苦しかったのだ。 だがそんな数々の思いも吐き出すことさえ出来ず、嗚咽だけが洩れる。

「ぅ・・・・・ ぅ・・ぅ・・・」

イザークの胸元に顔を寄せ、震える手で彼の腕を掴む。緊張の糸が切れ、堰を切ったように涙が溢れてきて止まらない。

「寒ぃ・・・ 寒ぃ・・ょ・・ィ・・ザーク・・・ ぁたし・・・ あたし・・ もう・・・」
「ノリコ」
「・・・ご免・・なさぃ・・・ あた・・し・・ あた・・・し・・・ ぅぅ・・・」




森が示した薬草にノリコの身の状態を懸念した・・・
無論躊躇などしてる暇はなく示されるままその薬草を取らざるを得なかったが、懸念は当たっていたようだ。
ノリコの衣服の汚れ、這ったと思しき床の跡・・・散乱した木箱・・・
恐らく見えないながらも自力で脱出しようと試みたのだろう、状況からそれが容易に解かる・・・
薬の影響は間違いなくおまえの身体を苛んでいただろうに・・・

しかし・・・見えているなら幾許かマシだったとは断言出来ない。
仮に見えていたとしても、捕捉されているという己の状況を瞬時に受け入れるなど出来ない相談だ。
そして雷雨に寒さ・・・
この部屋の造りからして、恐らく武器などの道具の保管場所であろう。
暖を取るための設備すらない、窓でさえ天井近くに申し訳程度に設えてあるしかない・・・
・・・こんな中でよくぞおまえは耐えた。

もっと・・・もっと早く気付いてやれていたら・・・



抱きしめる手を更に強め、腕の中に包み込む。

「・・・遅くなってすまなかった・・・ だが、もう大丈夫だ・・・ 俺がいる・・俺がずっと傍にいる・・・ノリコ」
「ィ・・ザ・・・ク・・・」
「手当てをしよう・・・ そして・・帰ろうな・・・・・」

腕の中でノリコが小さく頷く。

その髪に頬を寄せた。
もう二度と離しはしないと、己の心に固く誓いながら――――






管理人に愛を送ろうと仰る奇特な御方はこちらへ→ web拍手
長いご感想やメッセージがございますれば、こちらでも→Mailform



久々の更新となりました。
すっかりお待たせしてしまいました。すみませんですぅ<(_ _)>
実は、最初考えていたのより今回原稿が短いです。
残りについては、早い内になんとか…なんとか…。と、切に願う。
いや、願うだけでは駄目だ。行動に移せ。移せ。自分。
あ、やっぱり時間ください…(きゃー!)

しかし相変わらず場面暗いですね。
これホントに結婚式編なのかー?と自分でも勘繰りたくなる。。
情景描写や心理描写が主な今回、台詞が非常に少ないぞー。
甘いでしょうか… う〜ん、甘くなれ甘くなれと願いつつ、、
まだ足りん…orz

夢霧 拝(07.04.03)
--素材提供『W:END』様--



Back  Side1 top  Next