天上より注ぎし至上の光 〜 Love Supreme 〜 12




鳥達の囀りも心地良い陽の昇る刻――・・・
窓掛け越しの柔らかな光は、無限の可能性を秘めた希望の光である。

朝というものを、人はどう捉えているだろうか。
その到来を疑う者など、如何なる世であれ存在し得ないだろう。
枕辺で先の光を感じ、目覚め、人は今日も世界に朝が来たのだと知る。違えるものではない。
光ある処、影が対を成すのと同様当然在り、そして日毎の初まりを表すもの―――それが、朝であるのだ。
だが、今朝に限るなら、その概念は異なっていたと謂わしめるべきかもしれない。
柔らかな光を湛え訪れたこの朝を、誰もが大いなる喜びをもって迎えたのだから。

あの夜半の嵐が人々にもたらした思いとは何であったろう。
例えるならば悔いにも似た悲嘆・・・そして、畏れである。

直に回復する常の空模様の一つであると、その最初は皆思っていた。
だが、間もなくそれは、危惧へと姿を変えた。
もう朝など来ないのではないか、そんなことさえ案じながら昨晩人々は床に就いた。
ある者などは眠れぬ夜を過ごし、中には自らの罪・・・その些細な過ちまで全てを懺悔するに駆り立てられる者も在った。
まさか自分の所為ではなかろうか。まるで天が、世界が怒っているようだ。
自分の所為だ、この恐ろしげな嵐は自分の所為なのだ、と。
幼な子などはその小さな胸をほぼ違えなく悲嘆と恐怖で満たし、己が母に宥め慰められ、ようやく眠りに就いた。せめて夢の中では、心躍る安楽にて満たされ給え・・・との切なる願いを込め・・・―――

尋常ならぬ雨と風、そして織り成す闇の刻は人々を震撼させるに充分だった。
雷光は地と空とを恐ろしげに轟かせ、家々は大風に軋み、深宵の商いが当然である酒場などは早々にその灯を降ろしたのだ。
―――思うところは一つであった。
天が、世界が怒っている。ああ、あの元凶が滅んだというのに、また新たな脅威が始まるのか。
終焉だ、今度こそ世界は終わりなのだ。この闇は何処までも永久に存在し、陽の射す暖かな朝など来やしないのだ、と――――・・・
嵐の裏で起こっていたかのそれを知る者など一握りである。
心占めるものは絶望にも似て―――それが故に、天の怒りの真意に思い至る筈もなかっただろう。
日頃天など拝まぬ者、信仰に篤き者でなくともかの嵐を畏れ厭い、だからこそ、今朝の光を恩恵であると感じた。全てが赦されたのだと、そしてまた、新たな日が始まるのだと。
この光と共に今日一日を生きられることこそ、喜びであると。
そう感じられるほどに柔らかな、そして、豊かな光であった。


この街で今日婚儀が執り行われることを、街の者は皆知っている。
故に、今朝のこの光に安堵の息をついた。
素晴らしき好き日となるであろう、喜ばしいことだ、と。

今日の花嫁は幸せなことよ。
そしてその花嫁を迎える花婿は、尚幸せなことよ、と・・・――――







まるで絨毯を敷き詰めたかのように、そこは緑の草が一帯を覆っていた。
自然美溢れる造形には、季節の花がその美しい姿を見せている。要所要所で見事に梢を張る樹木はしかし場を彩る花の景観を損ねることなく、小鳥達が時折その身をやはり休めに訪れるのだ。
一際見事な大樹が根を張る中央奥所には今日の為に祭壇が設けられ、趣深い彫りの施された年代を感じさせる大きな卓が置かれている。そして見下ろすようにその後方の上部に張っているのは、樹と花と蔓とで成るアーチのような梁だ。それは人の手を借りて拵えたものではなく、幾歳もの時を経て自ら出来上がっていったのだという。大地の営みの不可思議といったところであろうか。
見上げれば、天がその光を余すところなく見せてくれる。しかしその陽は柔らかく、まるで諸人を祝福してくれているかのようだ。

イザークとノリコの二人が婚儀を挙げる、人々から≪祝福の庭≫と呼ばれ親しまれている場である。こうした祝いの催しの際に用いられることが多いが、町の者も気軽に憩える場所だ。
早くより町長を筆頭に役場の者達が会場の準備にと繰り出していたが、カイザック、バラゴやアゴルも率先し忙しく立ち回っていたのだった。急げば昼過ぎまでには全て整うであろう、と。
彼等だけに留まらずアレフや大公の息子達、そしてバーナダムも有志でこれに加わった。式に招待されたのだから彼等は客である。それでも是非に、という、前日の事件を知る彼等の厚意をバラゴやアゴルも有難く受け取ったのだ。
更に、グローシアもこれに加わることになった。・・・但し、苦言付である。

「一発引っ叩いてやらなきゃ、気が済まないわっ」

昨夜の事件の次第を耳にしたグローシアは、その始めぽかんと口を開け、アレフを見つめた。
大きく瞠るその様はまるで豆鉄砲でも食らったかという感であったが、程なくその口元は戦慄き、放たれた第一声が「呆れた・・」である。そしてさほど間を置かずに吐かれた先の物騒な台詞が、アレフ達をある意味震撼させた。

――――このお嬢さんなら、遣りかねねぇ・・・

式の最中に首謀者の頬っ面を引っ叩く光景が彼等の脳裏に鮮やかに浮かび上がり、皆等しく呻いた。無論その呻きも、そしてグローシアの台詞も外部には洩れていないが。
一体何処の何様よ――と更に毒づきながらも、殊に彼女を立腹させたのは、昨夜の事件を己が知らずにいたということである。兄達はちゃっかりと事件を知る場に居合わせ、それなりにも解決へと貢献したというのに、自分は何も知らずのうのうと宿で寝ていたのだ。
無論、あの嵐で今日を危惧したのは言うまでもないが、まさかその裏でそんな出来事があったなどとは夢にも思わぬだろう。しかも母親の二アナなどは、選びあぐねていた今日の衣装を遅くまで掛かって決め、安堵したのか嵐など何処吹く風という無防備な表情で寝た。 ・・・どんな環境でも眠れるというのは、真に逞しい限りだ。
まあ・・・母親の能天気振りに関しては今に始まったことではないから、百歩ぐらいなら余裕で譲りもしようが、

「それにしても、なんだってあなた達そんなに暢気でいられるのっ!?」

――と、これだけは一歩も譲れず、当然の如く彼女は凄んだ。・・・ちなみに、この台詞も外部には洩れていない。 洩らさずに凄めるのもある意味立派である・・・というのは、ここだけの話。
それはさておき―――
企ての首謀者が自分と同性、しかも同年代だというのがまず信じられなかった。そして会場に現れようとは、一体如何なる神経の持ち主であるのか。なのに彼等は事も無げに構えている。その暢気さの根拠は何処から来るのか。
式を無事に挙げることが第一であるとアレフは言う。解かるが、人間として許せないのだ。それに、そんな輩が現れて果たして滞りなく式が進むのかとの懸念もあった。どんな妨害策を講じてくるやもしれぬではないか。

「何も暢気に構えている訳じゃないですよ、これでも皆で最善を踏まえた上での結論なんです」

くれぐれも二人の挙式だけはぶち壊しにならぬようにとの配慮を、という説明で渋々納得したものの、その最善とやらを考えたという『皆』の面子に自身が入っていなかったというのも、彼女を不満たらしめるには充分であり――・・・
やはりその秀麗な頬を、不機嫌極まりなくもぷぅぅと膨らませた。

「いや、それはこう・・・不可抗力というやつですから・・・」

・・・あの場合は、である――――

「・・・」

歯痒い思いに、知らず唇を噛んでいた。
―――が、詰めた息を吐き出すように、程なく、グローシアの整った口から嘆息の息が洩れた。
なるほど、酒場に女達は居合わせてなかったのだから仕方がないだろう。しかも宵も進みゆく折、わざわざそれで起こしに行くというのも可怪しな話である。正論だろう。だが、だからこそ余計に癪に障るというものだった。

一方の男達にとっては、ただ冷や汗ものである。女のヒステリーなどと括れるものではない。それでもバラゴやアゴル、アレフは些かな苦笑いを隠せなかったし、兄達やバーナダムに至っては天を仰ぎやれやれと肩を竦めるしかなかった。しかし一見ふざけた調子ながらも、その心中は皆真顔そのものである。
誰しも承服し兼ねるだろう。そんなことは考えるまでもない。咎には厳罰、それはザーゴでは当然であったし、バラチナも例外ではない。疾く疾く捕え中央にもでも何にでも送ってしまえば良い、そう思って然りであった。男達でさえ、初めはその感情を憤懣に傾くに任せていたのだ。
それでも、煮える腸を鎮めたのは、全ては今日の為である。

誰に向けたところで万事遣る方なし、グローシアは会場を手伝うことでその憤懣を紛らわすことにした。
今度の件で最も怒っているのは誰なのか、である。その腸を一等煮え滾らせ、どころか既にどす黒く焦げ付かせていることだろう・・・しかしながら、それを内に抑え、静かなる怒りとして燻らせているのは・・・―――そんなことはグローシアにも解かること。二人の幸福が第一との思いは、言うまでもなくグローシアも同じだ。
ゼーナとアニタ、ロッテニーナも今朝方詳細を知るに至ったのだが、驚嘆憤りはしたものの後の反応はグローシアとは異なっていた。男達の意向を穏やかに汲み、ニーニャを手伝い午餐の準備に町の女達と加わった。
穏やかであったのには訳がある。ゼーナはその占の能力により、昨夜の大気の尋常ではない理を既に察していた。そしてそれが快方へと向かうであろうこともまた、感じ取っていたのだった。

そうして式会場の準備に臨んでいたバラゴ達だったが、その彼等でさえ、今朝の祝福の庭への街の住人達の繰り出しには仰天させられた。その作業の手が暫し止まったほどである。しかも、呆けた面まで晒し―――

「・・・お、おぃ・・」
「あぁ・・・しかし、こりゃまた・・」
「全くだ・・・凄ぇ・・」

誰に頼まれた訳でもない、しかしその手に清掃や剪定などの道具を携え、人々は集まってきた。
今は柔らかな光降り注ぐこの場にも、昨夜のあの嵐は例外なく爪痕を残していった。だから皆は集まった。 今朝の目覚めに思い致し、慶びのその場を再び綺麗に整え、花の町に拠点を定めた若い二人に最高の門出の時を迎えさせる為に。

「ああ、あんたも来なすったか」
「はは、そう言うあんたもな、早くからご苦労さんだなあ」
「ぁ・・いやぁ、何だかじっとしてられなくてな。何かこう、来ない訳にはいかなかったのさ・・」
「同じさ、俺も。そして皆も、きっと理由は同じだろう・・あの嵐の後だからな・・・」

穏やかな面持ちで、しかし若干の気恥ずかしさを交え、街の人々は互いにそんな言葉を掛け合った。そして空を仰いでは、本当に良かったことだと頷き合うのだった。
その空には、大いなる陽が柔らかな光を湛えている――――







永き闇に囚われるなら、その者は現れし光に驚愕し、そして畏れ惑うだろう。
しかしいつしか光の持つ温かみを、そしてその喜びをもまた知ることとなる。
闇のその色が濃ければ濃いほど、そして深ければ深いほど、湧き上がる光を、その眩しさを、そしてその有難みをより感じさせてくれる。
だが、それを感ずるが為に殊更に闇を取り入れようとするなら、それは愚かであるとは言えないか。
己の欲の為に、闇を取り入れようとする者が在るなら、その者は愚かである。

そして、幸を欲したが為に愚かな道へと進んでしまった哀れな娘が、ここに在る――――


「街で今日、婚儀があるそうですわ、お嬢様」
「・・・・そう」

食事をゆったりと終え、使用人に手伝わせウィズリーンは身支度を整えていた。
鏡に映るその姿は優美である。

「・・・あ、ですが・・なんでも、午後の茶の頃に延びたとか・・」
「ぇ・・」

使用人アムルの何気ない言葉に、ウィズリーンはピクリと反応した。

「先ほど庭師の者がそのように・・こちらに来る途中、多くの方達が祝福の庭の清掃に出向くのを見掛けたそうですわ。昨夜のあの嵐ですから、無理もないですが・・・」
「・・・・・」

にこりと継ぐアムルに、なるほどと僅かに笑みを浮かべた。しかし午後に延びようと同じこと、程なく中止と相成るだろう。そして失意のあの御方を、自分がお慰めするのだ―――
これから起こるそうしたことを脳腑に浮かべては、ふふと口角を歪めた。

「今日お召しになるご衣裳も素敵ですわ、お嬢様。ぁ・・・ですが、」
「何?」
「今日は午餐のご招待などございましたでしょうか・・・?」

ウィズリーンの豪華なそれを衣装掛けに移しながら、アムルは不思議そうな表情を見せた。
ふ・・と、またも女主人は笑みを零す。
昨日、バリスの店より届いた衣装である。布地の手配に手間取るのを承知でウィズリーンは更に上等の物を、と無理を吹っ掛けた。尤も、前日に仕立て上がるとは思っていなかったが。
無論ウィズリーンの意向企てなど一切知らぬバリスとユニカであるから、単に職人としての面目を保ったというだけだ。流石はその技、しかし、この急な依頼の為に針子の娘達がここ数日徹夜続きであったことを付け加えておかねばなるまい。そしてそれは、針子達を束ねるユニカも同様である。

「素敵でしょう、私もその婚礼の祝いに、参列させて貰おうと思ってね」
「は・・ お嬢様も、でございますか?」
「私もこの町にいる者ですもの、祝辞は是非とも言わせて戴きたいわ。ねぇ、アムルもそう思うでしょう?」

この町にいるのだから―――・・・如何にも尤もらしい理由である。
しかし、長閑なこの花の町に別荘を構えて以来、今やここが本邸であるのと変わらぬほど・・・それこそ、中央の本邸はおろかカンズの街の別邸にさえ戻ることのない気に入り様であるのだが、これまで一度として町の住人の祝事に参列することなどなかった主なのに、だ。
祝いたいという気持ち自体は殊勝な心掛けに違いない、が・・・どういった風の吹き回しであろう。
――・・・益々、首を傾げたくなった。

「・・・はぃ、・・では、午後にもう一度お召し換えを・・」
「いいえ、この衣装で行くわ。でも、そうね、まだ間があるから・・・ゆっくりとお茶でも楽しみながら待とうかしら」
「・・・は・・ぃ」

思わず呆けた面を晒しそうになったアムルである。それほどに不躾に主を見つめた。機嫌の悪い時ならば即咎められる所作であろう。
学の低い使用人ではあったが、それでも多少なり世間の常識というものは心得ているつもりだ。
ともすれば、花嫁のそれをも凌ぎそうな衣装である。そんな身拵えで出向くという主の言葉に、普段主には素直に従うアムルも首を傾げざるを得なかった。
だが―――・・・そこはやはり使用人。畏まりましたと頭を垂れ、主の言う通りに茶の支度を整える為一旦退室を告げた。

「ふふふ・・ふふ・・」

笑いが止まらない。花嫁とはよく言ったものだ。花の町にはそれこそ相応しい。さぞ素敵な一日になるだろうと、ウィズリーンはほくそ笑んだ。そして窓下で馬車の手入れをしている別な使用人の姿を見遣り、その表情を若干歪めた。

「それにしても、一体何処で潰れているのかしら。本当に仕様のない男だこと・・・」

―――苦(にが)しいそれである。
本来の御者を務める筈のジルヴァスは、とうとう昨夜戻っては来なかった。差し詰め、くれてやった報酬で飲み潰れたのだろう。戻らぬ理由をウィズリーンはそう判じた。普段から怠け癖のあるいい加減な男である。威勢ばかり調子良く、その実滅法肝の小さい全くもって不甲斐ない男なのだ。
しかし、そのジルヴァスが今は中央へと向かう護送車の中人(なかびと)と成り果てているなどとは、無論知る由もなかった。

「今度のこのこと姿を見せようものなら、おまえはクビだと言って遣ろうかしら。ふふ、慌てふためく阿呆面が目に浮かんでくるようだわ・・」

くすくす笑うウィズリーンの後方の扉が数回叩かれ、茶の用意が整った旨を告げるアムルの声がした。

「下の露台のお席にご用意させて戴きました」
「解かったわ、有難う」

天候も回復し、今は爽やかな陽が注ぐ一階の露台である。さぞ茶も美味かろう。
だが、普段は滅多に口にすることのない主の有難うという言葉に、アムルは若干戸惑った。そして、扉を開け出てきた主の次の言葉は、更にアムルを面食らわせた。

「あなたも一緒に如何? 美味しいお茶を戴きましょう」
「ぇ・・」
「ふふふ」

何が、この主をここまで機嫌良くさせているのか――――

使用人と共の場で茶を嗜むなど、無論なかったことである。どちらかといえばキツイ、そして気まぐれな主のそのにこやかな言葉をどう解釈して良いのか、咄嗟に返す言葉が見つからず逡巡するが・・・それでも、それもまた命令なのかと漸くはぃと頷き、畏まりながらアムルは主ウィズリーンの後に随った。

緩やかな茶の一時を優雅に楽しんだ後、更に庭師が手入れを施す花に見入っては愉しみ・・・―――
時を見計らい、ウィズリーンは御者の繰る馬車で街へと出掛けていった。









「さあ、これを着けましたら、出来上がりでございますよ」

接する仕草は恭しく、柔らかである。極薄地であしらった面紗をふわりと被せ、結い上げられた髪に留めてゆき、形を整える。

「ああ、綺麗だねぇ・・」

まるでその全身が白であるかと思わせるような、嫋やかな白き肌に融け込む純白の衣装に身を包んだノリコがそこにいた――――


あれから食事や簡単な身支度など済ませ別室へと移動し、そこでノリコはユニカと合流した。委細までではなかったが、ガーヤの家ではなくこの場所にノリコがいる理由を一応にユニカは心得ており、心からノリコを労ったのだ。

「ご依頼のお品は、確かにお渡し致しました。とても穏やかに微笑まれて、それはお喜びのご様子で・・・」
「有難うございますユニカさん・・・良かった・・」

ユニカのその報告をノリコはとても喜び、穏やかな笑みを浮かべた。
イザークがノリコに花嫁の衣装を誂えてやったのと同様、ノリコもまたイザークの今日の衣装をユニカに頼んでいたのだ。しかしイザークはそれを知らなかった。婚礼の儀式は言ってみれば花嫁の為のもの、ノリコがそこで輝ければそれで良い。そんな風にイザークも捉えていたので、己の衣装にさほど留意はせず、形程度のもので良いと事前にガーヤにもユニカにも伝えていたのだ。
無論それを承知でノリコはユニカに頼んだ。そして完成したそれが、先ほどユニカにより無事にイザークの手に渡ったのだった。
暫し言葉を忘れたかのように手にしたその衣装をイザークは見つめ―――・・・そして、呟いた。

「ノリコが、これを・・」
「はぃ、貴方様に是非にと。ノリコ様の心尽くしでございます、どうか・・」

無論ユニカはイザークをも労った。そして加えた言葉である。
ユニカの言葉にイザークは穏やかに笑んだ。衣装を見つめる柔らかなその表情は何か大切なものを思い出しているようでもあり、光を交えとても優しげである―――ユニカは思ったのだ。

「ノリコを頼みます。どうか、素晴らしく仕立てて遣って欲しい」

彼女が今日、一等輝けるように・・・――――
そう続けたイザークの言葉にユニカが畏まって快諾を示したのは、言うまでもなかった。

「私も感無量です。こうして喜ばしい門出のお手伝いが出来る瞬間が、一番誇りに思える時でございますよ」
「本当に、綺麗だよノリコ。イザークもきっと満足してくれるだろう。その前にきっとノリコに見とれてしまうだろうね」
「ユニカさん・・ガーヤおばさん・・ ぁ、有難うございます・・」

二人の言葉にノリコは恥ずかしげに笑んだ。しかし、その顔は本当に幸せそうである。
胸元にかけてすっきりと出したその衣装は、しかしドレープのように極薄い生地が肩口とその周囲を覆っており、さながら花びらのようで愛らしさと優美さを醸していた。
衣装全体としては簡素であるが、白を基調としており、清楚感漂うその仕上がりは好ましく、まるで妖精をも思わせた。そして上等なその生地は上品に光沢を帯び、光を纏うとその加減で更に美しく輝く。外ではそれが顕著となるであろう。
ノリコの細い腰を際立たせ、下半身は裾に掛けてふわりと広がり、流れるように包まれている。そして面紗、即ちヴェールが衣装の裾より長く拵えてあり、端の処々にあしらった小さな飾りはまるで花びらのようである。 頭部には更にこの町の花が、美しくあしらわれていた。

「とても素敵な香りがします。ユニカさんにお願いして、本当に良かった・・」

ノリコの笑顔にユニカも、そしてガーヤも満足げに微笑んだ。
そうした和やかな雰囲気の中、扉を数回叩く音がして、ガーヤ達は扉の方に視線を遣った。

「・・ぁ」

思わずノリコが破顔する。訪ねてきたのはアニタとロッテニーナ、それにグローシアだった。





「ノリコぉ〜」
「支度は出来てる?」
「ふふ、久し振り〜」
「グローシアっ、それにアニタ、ロッテニーナっ・・ああ皆、来てくれたのねっ」

扉の脇から僅かに顔を覗かせた三人に、ノリコの顔が喜びに満ちる。

「ニーニャさんからこっちだって教えて貰ったのよ・・・あなたに会いたくてね」
「ノリコ綺麗ぇー、それに、衣装がとても素敵ねー」
「本当ぉ、まるで本当に天使みたいだわぁ・・」

訪ねてきた三人とも、改めてノリコの姿に感嘆した。
そして幾久しくなかった四人揃っての再会を喜び、懐かしんだのだ。

時は少々遡る――――
アニタとロッテニーナ、そしてグローシアは会場の手伝いをする傍ら、もてなしの午餐の準備の手伝いなどもグローシアの母ニアナと共にしていた。そして一段落した後、三人で一足先にノリコの顔を見に行こうということになったのだが、ここへ来るにあたりアレフから釘を刺されていたことがあった。
今日の事に関し、ノリコには式以外については何も語るなというものだ。

「首謀者の女が現れることについては、一切知らせてはいません。それがどういうことか、解かりますね?」

アレフの忠告にグローシアは一瞬息を詰めた。ノリコに余計な不安を与えぬこと、そしてその意向はイザークも同様であることを真顔で伝えられては、流石のグローシアも何も返せない。
男達の言う通り、最善とやらの算段は整っているのだろう。改めてグローシアは解かってる、と頷いた。
しかしそれでも腑に収まらぬは、感情の成せる業か・・・

「やっぱり、引っ叩いて遣らないと気が済まないわよ・・」
「グローシアったら・・」
「発言が過激・・」

ここへ来る途中にもグローシアはこんな言葉を洩らし、アニタやロッテニーナの気を揉ませた。

「冗談で、こんなことは言えないわ・・」

一体どんな風にその女に対峙するのだろうか・・・と唇を噛んだ。
彼等なりに上手くは遣るのだろう、だがそれを別にしても、やはり同じ女として許せない気持ちがあった。それは彼女の正義感に因る所が大きい。
イザークに魅かれ憧れる気持ちは理解出来なくもない。彼が持つ独特の雰囲気は確かに人を引き付ける。
その力には、自分も憧れを抱いた。無論、彼の抱えていた壮大なる物を別にしての話。そしてそれは、恋情とは全く別のものである。ノリコと両想いであるのは知っていたし、その絆・・・何よりイザークのノリコへの執心振りを目の当たりにするなら、間に割り込もうなどという考えが起こる筈もなかろう。
尤も・・――と、更に唇を噛んだ。その二人の絆を、その軌跡を知らぬからこそ生まれた悪心だとも言える。
移民に対する捻れた価値観も然り。甚だしい勘違いの果てがこんな悪行、それもこれも、全うに立ち向かえない者ならではか。羨望の成れの果てとはいえ、はた迷惑な話である。
確かに逃げるのは簡単、気に入らぬ事柄全てを周囲に転嫁するのは楽であろう。しかしそれでは周りの者が堪らない。大体そうした思考、そうした人間の弱さが魔に付け入る隙を与え、世の混沌を招く羽目となったのではなかったか――――
嘆息すると共に、何処までも潰えぬ人の醜さというものをグローシアは痛感した。そして、鎮められぬ思いを抱えたまま町長宅を訪れ、ノリコの支度部屋へと足を踏み入れたのだった。

――――だが・・・

ノリコの姿を一目見た途端、据え兼ねていた諸々の思いは一瞬にして何処かへと吹っ飛んでいってしまった。そしてその手を取り、改めてグローシアは告げたのだ。

「イザークには悪いけど、彼より先にあなたのその姿を拝めたこと・・・とても光栄に思うわ、ノリコ」
「グローシア・・」

ノリコもまたグローシアの手を取り、微笑んだ。

「身体は大丈夫なの?」

その問いにノリコは一瞬不思議そうな顔を見せたが、気遣しげなグローシアの面持ちに、ややもって微笑って肯いた。

「昨夜の嵐酷かったわね、話もアレフから聞いたわ。あたしにも何か手伝えることがあったら良かったのに」
「グローシア、ううん、来てくれただけで嬉しい。本当に有難う、そして心配掛けてご免なさい」

大丈夫っ―――と、横から声を掛けたのはアニタだ。

「皆ノリコのこと気遣ってるわ。それに会場もね、すっかり準備が整ってるの。町の皆が有志で集まってくれたのよ」

ロッテニーナもそれに続く。

「イザークにも会ったの。彼、一段と素敵になっちゃってるわよ。あれじゃあ、町の人が祝福に押し寄せるのも無理ないわね」
「そうそう、あたし達はここへ来るからあんまりイザークとは話出来なかったんだけど、あそこにイザークが姿を見せた途端、も注目の的っ! すっかり皆に囲まれちゃってね。
可哀想に、イザークったらとても困惑顔なのに無碍に突っ張れないわ、見兼ねたバラゴがドロスと一緒に間に立って壁になってあげてるわで、もう可笑しくって」
「うん、それにアレフも上手に仲介しているのがね、更に可笑しいのっ。傍観者を決めていたアゴルまでちゃっかり巻き込んじゃってねー」
「ふふ、アレフはああいうのが得意なのよ」
「アレフさんが?・・・それに、ああ・・ドロスさんも来てくれたのね」

ドロスが来ているというのを聞き、ノリコは再び破顔した。招待状を送った内の一人である。

「ええ、彼にはほら、チモがいるしね」
「他にも、多分ノリコには懐かしい人達が来ている筈よ。でも皆まで教えちゃうと楽しみが減っちゃうだろうから、黙っておくわね」
「うん、楽しみにしてる・・」

聞きながら安堵の息をついた。懐かしい人々に会える、そしてイザークにも、もうすぐ会えるのだ。 心の中は躍る、しかし、気持ちはすぅーっと落ち着き安らいでゆくのが解かった。
そして、静かにノリコは瞳を閉じた。

「・・・ぁ・・ ノリ、コ・・?」

笑顔で話していたグローシア達が一瞬言葉を掛けるのさえ躊躇われるほど・・・―――
まるで光に覚醒したエンナマルナの時のように蒼く白い、だが優しい光。それがノリコを包むように仄かに浮かんだ。
思わず触れようとしたその手を、逆にガーヤにそっと窘められる。そっとしておやりと言わんばかりのガーヤの表情は穏やかそのもので、全てを解かっているようでもあった。
そして、一瞬瞠ったが不思議そうにその光景を見つめるユニカにもガーヤは穏やかに微笑み、案ずるには及ばないことを頷いて示した。

「イザークのところだよ、きっと・・」

ガーヤの呟きに、グローシア達も微笑んで頷く。

穏やかに瞑目する姿は、まるで瞑想するかのようだった。
そう―――・・・そこに既にノリコは、ない。







「―――・・っ、」

ふわり・・・と、温かな何かに包まれるような気配を感じ、おもむろにイザークは振り返り天を仰いだ。

「・・・・・」

穏やかに注ぐ陽の光、そして微かな風が肌をくすぐるように流れ、伝わる。その中に在る優しげな気配をイザークは捉えた。柔らかなそれに包まれ、そしてその気配を堪能するかのように、イザークは目を細め微笑を浮かべる。
来たのか・・・―――と、まるで問い掛けるような思念に、漂うその気配は優しくイザークを包み、
あなたに会いたくて・・・―――と応えた。

―――― とても・・素敵だわ、イザーク・・それに、たくさんの人・・・
                            もうすぐ、ね・・・そこへ行くよ・・・ ――――

優しげな風が頬を掠めてゆく。それに応えるかのように、イザークは一つ頷いた。
待っている・・・との思念を乗せて。


「よう、どうしたイザーク空なんか眺めてよ、雨の心配なら無用だぜ?」

不意に掛ける声がありイザークが視線を戻すと、バラゴが微笑いながら近くまで来ていた。

「・・バラゴ」
「どうした、惚けた面してよ。黄昏るには早いぜ?」
「ああ、いや・・ノリコが来ててな」
「ンあ?・・」

傍から見れば空を眺めているようにしか見えない。そんなイザークをからかうつもりだったのが突飛な返答を食らい、間の抜けた声で瞬いたバラゴである。当然周りを見渡すが、そこにノリコが来ている筈もなく―――バラゴは苦笑した。

「なんだよ、遠耳か」
「違う。だが、似たようなものかもしれん」
「おいおい・・」

的を射れぬ答えに益々バラゴは首を捻り苦笑する、その様にイザークも微笑った。

「しかしアレフはアレだな、一種の才能だぜ。ここぞとばかりおまえに寄り付こうとする町の女共を見事にあしらってやがる。 だがつんけんとする訳じゃねぇ、ちゃんと耳に心地良い言葉を吐いて喜ばせてよ、見てるこっちが赤面ものだぜ・・」
「ああ」
「時々よぉ、ヤツが本当に武人なのかと思えてくるほどだ」

ある意味胡麻を摺るのと似ている―――
尤もアレフのそれは性格なのか、常套句に近い。そういう軽口が武人に見えぬのだろうが、ある意味では武人のそれに充分通ずる。そう、戦略家だ。そして、作戦の遂行に必要ならば嫌悪すべき行為であっても甘んじて遣ってのけるだろう。しかしその影では全く別な横顔を隠している。方便も使いようと言ってしまえばそれまでだが、アレフのそれはより胡散臭い。掴み所がないとも言える。イザークはそんな風に分析し、それがアレフの個性であるとして受け入れている。ただ、それだけだ。良いも悪いでもなく、それ以上の関心を示すことも一切ない。
そして・・・――――
腕を組みながら皮肉ったバラゴだったが、おまえも似たようなものだろう、と涼しい顔で返され怪訝な面になった。ここでイザークが言及したのは、胡散臭い方便のことではない。

「花」

横目で指摘を受ける。胸に着けてる花飾りだ。
参列者は皆左胸に端整な花を飾りとして着けている。それはバラゴも例外ではなく―――というより、大き目の綺麗な花をわざわざ選んで彼は着けていたのだ。

「花を着けて悦に浸るおまえも、武人には見えん」
「・・・イザーク・・、は、は・・」

・・・・・知る人ぞ知る、バラゴの『花好き』である。
これには返す言葉がなく、バラゴも苦笑するしかなかった。

「だが、なかなか悪くないだろ? ・・まぁおまえの場合は誰が見ても認める、花が似合う男だ。しかしそのおまえも、武人には見えんな」

イザークもまた、その衣装の左胸の辺りには花飾りがあしらわれていた。この姿のイザークだけを見るなら、彼が壮絶な命の修羅場を幾多も掻い潜ってきた剣体共に秀でた武人であるとは想像もつかぬだろう。 差し詰め貴族、あるいは何処ぞの国の皇太子と言っても通じるだろうと微笑うバラゴに、イザークも薄く微笑った。


会場となる祝福の庭には、彼等を含め町の者達がかなり集まってきていた。
一足先に会場脇に姿を見せていたイザークに祝いを述べようと近付いてくる者は老若男女を問わず、この期に及んでもまだイザーク目当ての女達は、正装に身を包んだその凛々しい姿に一層見惚れたり、これが婚礼の席であることで憚らず、あるいは人目を避け悲嘆の涙に暮れ手布を噛んだり・・・と、その姿は様々であった。
そしてそれはノリコに密かに好意を寄せていた幾人かの男達も同様で、非の付け所を見つけられるどころか、姿を拝んだだけで勝負する前から既に敗北している者達が多く、それでも、中には諦め切れずにこれまた隠れて悲嘆に暮れる者在りと、傍から見れば同情を寄せて然るべきか呆れて良いのかであった。

そうした中、会場に昨夜の事件の首謀者と思しき女が姿を現すのか、それとも既に来ているのか・・・バラゴ達は周囲に気取られぬようその目を光らせていた。ご婦人に麗しい言葉を吐いているアレフも同様、その注意は周囲へと注がれていた。バーナダム、そしてロンタルナ、コーリキも会場の要所要所に所在を置いて同じく、更に、ウィズリーンの姿を見知るカイザックも式進行の助手としての準備の傍ら周囲にその気を配っていた。
しかし・・・――――

「ドロスは穏健派だからな、今回の事は何も話してないぜ」
「それでいい。・・・既に気配が近い」
「・・・・・・ったく、敵わねぇな、おまえには」

かのそれを逸早く察したのは、やはりイザークだった。そして、こんな時でも気配に敏くしかも淡々と告げるイザークに、バラゴは感心したとも呆れたとも取れるような口調だ。
バラゴ曰く穏健派のそのドロスは、イザークに近寄ろうとする街の女達の勢いには気圧されそうになったが、ノリコとの再会を楽しみに先ほど右袖へと控え、その掌と肩にチモを載せあやしながら穏やかに皆の様子を窺っている。隣には二アナもおり、時折ドロスに気さくに話し掛けているようだ。

「ま、それでこそおまえか。だが、任せてくれよ」
「すまんな」
「なに、おまえの為に一肌脱げるんだ、お安い御用だぜ・・・っていうかな、おまえが絡むと今回ばかりは逆にややこしくなる。 ノリコに集中しててくれて丁度いいんだ」
「了解だ」

周囲の手前小声で話すバラゴに、イザークも苦笑しながら合わせた。


イザークが察した通り、ウィズリーンの姿は既にこの祝福の庭の一角に在った。
会場に集う人々から幾分下がった小高い場所に姿を見せたのだが、目にした人々の反応はどう贔屓目に見ても好ましいと言えるものではなかった。纏っている衣装はそれに応じた場ならば、その華やかさに感嘆の声も惜しまれることはないだろう。しかし生憎この町には常識人が多い。町の人間が簡素な祝い着でいる中、どう見ても場違いとしか思えぬウィズリーンの衣装には誰もが驚き、疑問と半ば呆れた表情を隠さなかったのだ。
だが、そこは自分本位な豪族の趣向―――と、それ以上の関心寄せに時を割くことすら惜しむように、彼等の注目は喜ばしい舞台への期待へと替わったのだった。







「―――さあ、足元に気を付けて、ノリコ」

会場へと向かうには、花嫁は馬車を使う。その馬車は花嫁を運ぶ役割に相応しく処々に花々をあしらい、華やかであった。そしてノリコも、その馬車に乗り込むべく町長宅の玄関前に姿を現していた。
グローシア達は再び目を開け穏やかに笑んだノリコに安堵し、一足先に会場に戻っていると先ほどここを離れたばかりである。
そして傍にはガーヤとユニカも付き添い、衣装の裾に気を遣いながら階段を降りるノリコを、会場へ向かう途中の幾人かの人々そして子等が目する。歓喜の色で瞳は輝き、同時に歓声も上がったのだ。

「わあぁ、キレイっ、ノリコすっごくキレイだよ〜」
「ノリコ、おめでとう〜」
「おめでとう〜」

町の子等は皆ノリコを慕っている。その子等がノリコの晴れ姿、しかも、妖精とも天主の遣いとも思わせるその姿に見惚れ興奮するのは当然であった。
可愛らしい歓声で近付く子等に合わせ、身を屈めてノリコも応えた。

「皆・・・ 来てくれたのね、有難う」

ノリコの笑顔に皆は益々嬉しくなった。そして昨日リスムを通じて貰ったノリコからの菓子についても、美味しかった、有難うと口々に礼を言う。ノリコもまた菓子を子等が喜んでくれたのを嬉しく感じ、笑顔で応えた。
しかし・・・このままでは子等は離れそうもない。それは、ガーヤの苦笑を誘うほどだった。

「さぁさ、あんた達も祝福の庭に向かうんだろ? じゃあお急ぎ。ノリコもすぐに馬車で行くよ。会場ではノリコの幸せな姿をもっと拝めるだろうさ」

ガーヤの言葉に子等は思い出したように、あたふたとしだした。心配そうにノリコを見つめる者も。

「ほんとう? すぐにくる?」
「うん、すぐに行くよ。だから、皆先に祝福の庭に行っててね。イザークももう行っている筈だから、ね」

ノリコの優しい言葉に子等は歓声を上げ、それぞれの親の元へと散っていった。親に迎えられ会場へと向かう子等、そしてノリコの馬車が出るのを今か今かと待つ子等、その様は分かれた。
そして促すガーヤにノリコは立ち上がり、再び階段を降り待機していた馬車へ向かうが、通りの向こうから一人の童女が遠慮がちに自分を見つめているのに気付き、にこりと笑顔を向けた。ノリコの笑顔に、童女は最初はおずおずと、しかしすぐに意を決したように近付いてきた。そして、その童女にも、同じくノリコは身を屈めた。

「こんにちは、トワン」

童女--トワン--の瞳を見つめ、語り掛ける。

どちらかといえば内気なその童女は、いつも他の子より控えた場所にいた。
この町に来て程なくノリコの優しい雰囲気に子等はすっかりノリコを受け入れ、そんな彼等に、自らの婚礼準備、更にはガーヤの店の準備なども手伝う傍ら、ノリコもまた気さくに話したり、時には差障りなき程度の旅の話なども話して聴かせたりしていた。
そうして街の子等に囲まれるノリコの姿を幾度か見掛け、本当は自分もその中に入っていきたい、もっとノリコの話を聴きたいと思いながらも遠くから見つめるのが精一杯で、気付いたノリコが話し掛けるということもあった。だから、ノリコが自分の名を覚えていてくれたことにとても喜び、安堵の笑顔になったのだ。

「・・・きのう・・の、おかし・・・おいしかった・・・ありがとう、ノリコおねえちゃん」

ノリコの焼いた菓子を受け取ったトワンは喜び、それを大切に食べた。そしてその礼を是非自分の口から伝えたかったのだ。
菓子を食べてくれたこと、そして童女の健気な気持ちに、ノリコもまた喜んだ。

「お口に合って良かった。トワンに喜んで貰えて、あたしもとても嬉しいわ」
「・・・また・・作れ・・る?」

無邪気なその問いに、目を瞠る――――・・・
応えるのに躊躇いがよぎり、気遣わしげにノリコは眉根を寄せた。
明日になればこの町を出て行く、それは、童女のささやかな期待にさえ応えてはやれなくなることを意味した。
若干の後ろめたさに、一度俯いたノリコの表情は寂しげなそれを含んでいたが―――それでも、顔を上げた時には穏やかな微笑みを浮かべ、トワンを見つめ、その頬を優しく撫でた。

「・・・きっと・・ね」
「きっと・・」

無論、ノリコの内なる想いがトワンに汲める筈もない。ノリコの返答を肯定のそれと捉え喜び、鸚鵡返しのように言葉を続け、はにかんだ。そんなトワンの頬にノリコもそっと頬を寄せ、また会場でねと言葉を掛け、立ち上がる。
通りの袂にいた両親の元へ笑顔で戻り振り返って手を振るトワンの姿を認めて後、ノリコは馬車に静かに乗り込んだ。その後に、付き添いのガーヤも乗り込む。
二人が乗り込んだのを見届け、ユニカが恭しく頭を垂れた。そして御者により程なく手綱が裁かれ、会場となる祝福の庭へと向かうべく馬車は静かに動き出した。

歓声を上げ、子等が後を追って駆けてゆく――――









「では、宜しくお願いします―――」

袖でイザークと話をしていた男が、挨拶の後、その場に用意された椅子に腰掛け、道具の準備を始めた。柔和そうな笑顔が印象的なその男は、先だって依頼をしていた絵師である。
バラチナで絵を嗜む者ならば、彼の存在を知らぬ者はいないだろう。そうした屈指の存在であるにも関わらず、無欲で誠実な青年だ。そして実は盲目でもある。だから、二人の姿を肉眼で拝むことは出来ない。
だが、占の力こそないものの、心眼でその姿を捉えることの出来る能力を生まれ持っていた。そして人柄が作品に表れているのか、彼の描く絵は柔らかで人の心和ませ、繋ぎ止めるのだ。
この町の町長とも馴染みがあり、イザークとノリコへこの絵師を紹介したのも実は町長であった。
今日は式に臨む主役の二人をその心眼で追い、幸福な姿の全てを心に刻む――――

目礼の後イザークもそこを離れ、今度は壇の左側下手にてノリコの到着を待つ為、カイザックと共に移動した。バラゴはイザークと離れた後、アゴルと共にいる。そしてアレフ、バーナダム、ロンタルナ、コーリキは、先ほどの場所にまだ控えていた。
壇上に一度上がった町長は厳かな卓越しにぐるりと周囲へ目を配り、満足そうに何度か頷くと両下手のカイザックとニーニャに最終の指示を二、三口頭で伝え、また右袖へと下がっていった。


そうした様子を窺いながら、ウィズリーンはそろそろこれを訝り始めていた。
何故、こんなにも和やかに、しかも着々と準備が成されていくのか――――と。
花嫁の失踪など当に知れている頃だろう。そも、来た時点で、もう中止が叫ばれているものと踏んでいたのだ。なのに関係者の誰にも慌てふためく様子が見られない。どころか、笑顔さえ見せているのはどういう訳か。
参列している町の者達は、式の始まりを今か今かと待っている。街で見掛けたノリコについて、可愛らしい娘さんで・・・と、その印象を快くも語るのが聞こえて来て、苦い感情を呼ぶ。
しかし―――と、それでも拳を握った。
ギスカズールは必ず事を遂行する男である。万が一でもそれを違えることなどないのだ。
簡単に見つけられる場所ではないとあの男は言っていた。町境の険しい森であると、そして恐ろしげな獣が未だ巣くう山であると。何処でも良い、今日の式が中止になるなら、あの娘が戻って来れぬ場所であるなら、何処でも良かった。だから最適の場所を考えたというその策を、その遂行を喜んだのだ。
ずぶ濡れになって戻ってきたあの男達は確かに遂行したのだと報告した。ザインなど、その森を抜けるのにどんなに苦心したかと自慢げに語っていたではないか。二度と近付きたくない場所だと悪態までついたのには辟易したが、彼等の報告に、約束のそれより上乗せし報酬を渡したのだ。そして誰にも見つかることのないようすぐに姿を消すようにと告げ、程なく彼等は屋敷から去ったのだ。
易々と目覚めることのない薬と香。何より、あの娘がこんなにも早く自力で帰って来られる筈がない。失策に終わる筈がないのだ。
・・・そう、もうすぐ、慌てふためく関係者の姿が見られる筈。

そんなウィズリーンの胸中とは裏腹に、式服に身を包んだ町長が晴れやかに壇上へと上がった。そして参列者全体に一度視線を巡らす。

「天はこの花の町に、そして新たな門出を迎える若い二人に祝福の印を与えてくれたようです。見てくださいっ、」

一度言葉を区切り、町長はその右腕を大きく広げるように天へと掲げ、指し示した。

「この見事に晴れ上がった空をっ、正にウィジリーバル・アルシェスの微笑みのようではありませんかっ」

町長の晴れやかな声に、参列者の輪からは喝采の声が上がった。

「皆さん方の惜しみなき協力により、この祝福の庭もすっかり美しく整え上げられました。私からも心から礼を申します。 そして、今日のこの素晴らしい日に、式次第に臨み、そして月下氷人として二人の門出を見届けられることを誇りに思います。 いいえ、私だけではなくここに集う皆さん全ては二人の婚姻の証人となるのです。これほど喜ばしいことはないでしょう。
花嫁の馬車は先ほど出発したとの報告を受けました。間もなくここへと到着することでしょう」

町長が言葉を置く毎に街の者達は歓声を上げた。既に感極まる者達さえいた。
そして、皆の声の静まるのを待ち、今暫くこのまま待っているようにとの声を掛け、町長は一度下手へと下がっていった。

「・・・ま・・さか・・」

周囲が喜びで湧き立つ中、思わず洩らされたその声は聞き取れないほど小さく、頼りなげであった。

あの娘がここへ向かっている――――!?

にわかには信じ難いそれを噛み締める。そんな筈はない。あの移民の娘がここに来られる筈がない。
自分よりも幸福な者が在って良いものか。ましてや移民の娘などに。
これは何かの間違いだ、最後に笑うのはこの自分であるのだ―――と、崩れそうになる何かをぐっと堪える。
だが、祝福の庭に程近い通りに響いてきた馬車の音により、ウィズリーンの思いは打ち砕かれることになる。 そしてその音に思わず顔を上げた先に、こちらを注視しているイザークの姿を認め・・・

「っ・・」

――――視線がかち合う。虚を突くその眼差しに、ウィズリーンは動けなくなった。

「・・・・・」

それが錯覚ならば幸いだっただろう。
だが僅かな間とはいえ、イザークの視線は確かにウィズリーンに向かっていた。

何の感情も込めぬその表情は、一見穏やかにも見える。しかし全てを見透かすような洞察を秘めた、そして底なしの深き闇を思わせるような・・・見る者にとれば非常なる威圧を感じる目である。
ゾクリと背に走り抜けたそれは、微かに生じた後ろ暗さ故の悪寒か――――
かの視線に射抜き圧されたかのように、ウィズリーンの足が数歩退いた。




馬車の音と共に子等の喜びに満ちた声も通りに聞こえ始め、次第に馬車がその姿を顕にする。
白い車体は美しい花と緑であしらわれ、乗り手の幸を象徴するかのようだ。そして、先の子等が馬車の後を歓声を上げながら追って来る中、皆が見届ける祝福の庭前の道沿いへと、馬車は静かに停まった。
後部座席に花嫁の白い衣装の裾が垣間見え、人々の注目と期待は俄然高まる。 今か今かと花嫁が降りてくるのを待った。

装いの袂を注意深く持ちながら降り、先に姿を見せたのはガーヤだ。待ち構えている人々に会釈し、改めて昇降口に向き直って手を差し伸べる。その手をそっと取り、今日の主役が昇降口に姿を見せた。衣装の裾をやはり注意深く持ちながらゆっくり静かにノリコは車を降り、大地にふわりと足を着ける。
周囲から感嘆の声と溜め息が洩れるまでに、寸分の間も掛からなかった。

「有難う、おばさん」
「なんの、お安い御用だよ」

礼を告げるノリコに、応えるガーヤもにこやかである。




「・・・莫迦・・な・・そんなのって・・」

展開される光景に、動揺を隠せない。
どうしてあの娘がここに姿を見せられるのか。ギスカズールは失敗したというのか。
それに――――

「く・・」

侮っていた。たかが移民の娘と、名もない遙か東の島出身のみすぼらしい娘なのだと、そう思っていた。
なのに、輝くばかりのあの美しさは・・・
急速に目の前が暗くなるのを感じ、均衡を保てなくなった身が足元からぐらついた。

「おおっと、大丈夫かい? お嬢さん」

後方によろけたところを何者かに支えられる。えっ―――と我に返り、掴まれた肩越しに後ろを見上げた。

「ははは、花嫁の美しさにあんたも感極まったのかな」
「はっ、本当になぁ、あれは予想以上だ」
「なぁ、イザークを見てみろよ、ありゃ完璧にノリコに惚れ直したって顔だな」
「全くだ、ノリコしか目に入ってない。しかしそこがまた、あいつらしい」
「ちぇー、ちぇぇー」
「バーナダム、まだそんなこと言ってるのか、おまえは・・」
「諦めなさい、ノリコは君の物にはならないさ」
「解かってるよ、畜生ぉ、綺麗だなぁ、ノリコぉ・・」
「それ以上の発言は控えろ、命が幾つあっても足りねぇぜ」
「ふっ、ノリコを奪おうとすれば奴が黙ってない、勿論危害を加えようとする者にも、だ」
「そうさ、イザークの宝だからな、ノリコは」

周囲の男達がいきなりそんな会話を始めた為、面食らってしまったウィズリーンである。
そしてよろけた彼女を支えたのは、背後にいたバラゴだ。

「命なんて既にないようなものさ・・・もう、全く抜け殻同然だよ・・ちぇ・・」
「おぃおぃ・・しょうがねぇなぁ・・」

「・・・・ちょ・・っと・・・」

後方にはバラゴとアゴル、そして見渡せば、右にロンタルナ、左にコーリキ、更に前にはアレフとバーナダムがいた。 ほんの数刻の間の出来事だ。参列者に紛れ、そこは不自然とならぬように気を配りつつウィズリーンに近付いた。
彼等の為にウィズリーンの前方への視界はほぼ塞がれてしまった。見えているのはアレフとバーナダムの背であり、横にいるロンタルナとコーリキもその視線は主役の二人へと向いている。よろけた彼女を支えたバラゴと隣のアゴルはウィズリーンに目を向けたが、それも僅かな間である。
いずれも腕を組み、ウィズリーンなど眼中にない様子でありながらも、さりげなく、しかし見事にその周囲を固めている。
そして、馬車から降りたノリコの姿には皆感嘆の声を洩らした。
天使のような清楚な印象の中にも、女性としての一番幸福な時を思わせる艶とも言える美を醸し出している。 仲間を信頼する揺るぎなき心、それが内面から滲み出る美しさとなっているのだろう・・・例外なく皆を魅了した。

「ウィズリーン・ルド・アルヴィスタって、あんたのことだろ?」

訝しげに見つめるウィズリーンに、バラゴがそんな質問をした。お陰でその顔が更に怪訝に歪む。 何故に面識もない、しかもこんないかつい、品のなさげな男が自分の名を知っているのか。
――――それは、いきなりの不躾な質問への非難の目でもあった。

「俺達は、イザークとノリコの友人だ」

尤も、そんな視線にも構うことなくバラゴは続け、自分はバラゴという―――と簡単な自己紹介をした。他の面々も、アゴル、アレフ、バーナダム、ロンタルナ、コーリキ・・・と、それぞれ自分の名を短く告げた。

「な・・何なの、一体・・」
「ギスカズールという男から、あんたのことを頼まれてなあ」

他の参列者には悟られぬよう小声、しかも身を若干屈めたバラゴの言葉が耳近で聞こえ、ウィズリーンをギクリとさせた。 僅かに瞳を見開くが、しかし、

「何のことを言ってるのか・・・・・いきなり・・失礼じゃないこと・・?」

気丈にも反論する。但しその声は若干震えていた。
無理もない。ギスカズールが裏切った―――心の中で、それが渦巻いていた。
アルヴィスタの家で、誰も信頼など出来ない、父も母も冷たいそんな中で、それでも唯一気に掛けていた。
いつも自分には従順で、擁護してくれていた男。そんなギスカズールに信頼さえ寄せていた。その唯一の人物であったといっても過言ではない。なのに、そのギスカズールも両親やくだらない者達と同じ世界の人間だったというのか。
期待していただけに、失望は大きい。何もかもがガタガタと音を立てて崩れていくようであった。

「そうか知らんか、なら仕方ないな」
「そういうことだな」

苦笑いを含んだすっ呆けた台詞を吐いたのはバラゴとアゴルだ。無論、女の反論など想定内である。

「じゃあ、ここへはあの二人を祝福に来てくれたと、そういうことなんだな?」
「あ、当たり前じゃないっ」

思わず顔を上げた。しかし横目のアレフに、指を口元に充てた『静かに』という意味の身振りで諭される。

「厳粛なる誓いの場ですよ。周りにも聞こえる。お静かに」
「・・・っ」
「二人を祝福する気でいるならそれでいい。だが、そうでないなら俺達も黙っている訳にはいかねぇ」
「そう、心得ておくといい」
「・・っな・・」
「言っただろ、俺達はあの二人の友人だと」

代わる代わるそんな台詞を口にしながらも、男達の視線はずっとイザークとノリコに注がれている。
なのに、つけ入る隙の全くない男達の余裕の姿勢。

「・・・・・・・」

反論する文言はおろか、如何なる言葉ももう出せなくなっていた。




「さあノリコ、イザークが待っているよ」

笑顔のガーヤに促され、中央へとノリコは視線を向けた。
花嫁を迎える為、壇の左手袖に控えていたイザークは既にその場まで出て来ていた。白を巧みに織り込んだ蒼銀の正装を身に纏い、時折そよぐ微風に靡く髪は黒く艶やかで、誰もが見惚れる凛々しさである。しかしその表情は優しく、視線は馬車が到着した時からずっとノリコだけに向けられている。

――――必ず俺の所へ来い・・・

今朝の、離れる間際のかの言葉が蘇り・・・感慨を呼ぶ――――
噛み締めるように瞑り、そしてゆっくりと瞳を開きガーヤに視線を戻すと、頷いてノリコは差し出されたガーヤの掌にそっと自分の手を置いた。
静かなる衆目の中、ガーヤに手を引かれ柔らかな草の上をゆっくりと進みつつ、中央で待つその人の許へと向かう。
二人が相対した時―――それは一方の娘には無類の幸を、そしてもう一方の娘には、終わりなき引導を授けられたも同然となったことを意味したのだ。

「・・・天の遣いが、降りて来たのかと・・」

己の許へと舞い降りた娘を見つめる瞳は、何処までも優しげで・・・
それに応え見つめる瞳は、恥ずかしげで、しかしその表情は幸福の感動溢れる微笑みに満ち・・・

「そう思えた。見間違うほどだ・・・とても、綺麗だ・・」
「・・イザーク・・」

穏やかな眼差しでの言葉に、ノリコは頬を染めた。

「感極まるのはまだ早いよ、ノリコ」

瞳を潤ませかけたノリコを微笑ましく見つめながらもそこは小声で窘め、ガーヤは改めてイザークに視線を戻した。

「確かに、あんたの許に届けたよ、イザーク。これであたしも、肩の荷が降ろせる」
「・・ああ――」

有難う、とガーヤに告げ、託されたノリコの細い手をイザークは優しく取り――――
見届けたガーヤは一歩辞して二人に一礼し、祭壇そして参列者へもそれぞれ一礼して後、下手へと下がっていった。



「・・あなたも・・とても素敵・・・イザーク・・」

囁いたノリコの言葉に僅かに瞠り、だがすぐにまた優しく微笑むと、改めて自らの腕を差し出した。
そっとその腕をノリコは取り、僅かに見つめ合う。
そして――――
共に正面へ向き直り、イザークとノリコは誓約の場となる祭壇の前へと静かに歩み出た。







気に入ってくださいましたら、管理人に愛をどうか…
お言葉もお待ちしております。励みになります。→ web拍手


年内更新に間に合った…(^^; ←志が小さいぞ。
『天上〜』で、今回が一番テキスト量多いです。一番多かった六話のそれを超えました。あはは…懲りない奴。
ただ、行ける所まで書きたいなとの思いがあったのにそれが叶わなかったということ、残念です。
まあ愚痴っても仕方ないですね。気持ちを切り替え、次回更新に向けて原稿作成に臨もうと思います。
時間は掛かりますが、待っててください。

今回、様々な方が色んな場面で活躍(?)してくれてます。
仲間って良いな、想いって良いな、と感じます。
花嫁の姿を目にした花婿さんは、きっとすぐにでも抱きしめたい気分でありましょう。
メロリンキュ〜であります。言葉にならない感動、このまま温めてください、ネ、イザークさん?(笑)
次回は式次第、進めて参ります。どうぞ宜しくお付き合いください。

夢霧 拝(08.12.24)
『空色地図』様より素材をお借り致しました。




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