Celestial Saga - セレスティアル サーガ -




5


 木立に透かされ、幾分和らいだ夏の陽光が、窓辺に射し込んでいた。
 枝葉(えだは)の陰影もまた紗の窓掛けに映り込み、時折入ってくる微風がふわり、ささやかな舞を仕掛けては静けさに彩りを添えている。
 市街の賑わいを示す気配も、傍らに林を戴くここでは僅かである。木立を我が塒(ねぐら)と歌い上げる鳥達の囀りやそよぐ風の匂いの方が、勝っているようだ。
 そうした心地好い気の流れを感じながら、ノリコは部屋で、刺繍という名の針と糸の舞を暗翠色の長布に施していた。

 先日の広場での喧噪なども忘れてしまうような静けさである。そして今、イザーク達はこの屋敷にはいない。バラゴやアゴルは勿論、灰鳥に縁の者達も皆、ジーナの占いに出た不穏な人物の手掛かりを掴む為、根城捜索へ出ていた。
 もっとも、掴んだ傍からすぐにそれら輩を捕らえるという訳ではなかった。問題の日までに余裕があるとはお世辞にも言えなかったが、強制連行は最終手段という位置付けとなった。
 その為、バラゴなどはこれに生温いとぼやいたものだが……
 ただ、そんな彼も、町の人間に害が及んで良かれと考えている訳ではない。
 当初懸念に描かれたように、事と次第では住民の常の暮らしまでもが脅かされる。無用な混乱はできるだけ避けたい。ならば、敵方には悟られず、しかも速やかに不穏分子を把握する必要がある。
 さながら苦虫を噛み潰したような渋り面は変わらずであったが、漸くそれでも、理屈ではな――と幾ばくかの妥協を示した。
 ――なのに、

「その上で彼等には、国府より特別に仕事を与えることにしました」

 にこりと言い放たれたクレアジータの言葉に、彼等の捕捉を当然視野に入れていたイザーク達は一瞬その意図を掴みかねた。捕捉、それと職を与えること――にわかに結びつかないそれらは、関連を訝りこそすれ、易々腑に落とせるものではない。
 普段、滅多なことでは表情を変えないイザークでさえ形のいい眉を若干顰め、他の面々においては大方が目を瞠り、呆気に取られたように口を開け――…二の句が継げるまでに、些かの沈黙を余儀なくされてしまった。
 ――しかし、公には職の斡旋という、あくまで善意に満ちた召集であるが、中身は実に任意の出頭令と変わらない。
 些か騙し討ちのようでもあるが、対価を払うのだから正当であると威張っていい。

 此度の事態に至り、中央の対応は早かった。殊に国主の、と言った方が相応しいだろう。
 通常、諸々の決定には閣議を通すが、此度は国主の勅命によって速やかに各機関が動くこととなった。
 デラキエルとアジール――たった二者でありながら、世界に多大な影響力を持つその存在が今何処に在るのか、知っているのは仲間やクレアジータの他は国主だけだ。
 無論、二者の詳細については全て、人の形(なり)を持つ者であるということも、名も、その所在も伏せられている。
 だが、闇の眷属を斃すに多大な貢献をした二者である――
 この国の閣僚の殆どは二人の存在を知らないが、そんな彼等にも、国専占者のかの言葉は驚きと共に歓喜すべきこととして伝わったのだ。
 占者の言葉を借りるなら、今や光の存在であり、結果、世界に立ち上がる勇気を奮い立たせた二者への仇為す行為。あろうことか、町一つを巻き込んでの強襲。延いては、国全体への強襲に等しい由々しき事態。
 占で示された凶事までに日がないということも、事を急ぐ事由となった。

 ――即ち、彼等不穏分子を速やかに特定した後、中央より召集を言い渡し、正当な職を与える、というもの。報酬については労働の対価としてその旨が支払われる。そして任地は、この町からかなり離れた場所を充て、任期もそれ相当の日取りを充てる。

 一つには、ここより遠ざけるという意味合いがあった。端からの有志には難しいが、単なる寄せ集めならば士気は煮上がらぬ内が摘むに易い。
 態のいい夫役のようでもあるが、国を立て直すに必要な労働力は何処でも未だ引く手あまたである。それが渡りの者であろうとそこらの無頼漢であろうと、違いはない。
 閣僚の中からは、対価を払うことへの疑問――所謂、生温い論――を呈する者も出たが、この対価は彼等を離す為の目眩ましでもある。真人間として働く場を与えられるなら、双方共に御の字であるだろう。
 そうした舞台体裁は中央で幾らでも整える用意があるが、それでも招集に応じない輩も在るだろう。それら分子への現場における対応は、クレアジータやイザーク達に一任された。無論、命令一つでいつでも機動可能な軍の用意もある――
 日数に猶予がないからこその平行手段だったが、先の占いにより場所の特定ができていた為、危惧した割には作業は捗ったと言えた。
 だが、依然として把握できていたのは所謂下っ端の連中に限られた。
 首謀者への霞――それは未だ、晴れてはいない。




 祭りまでは数日。それまでノリコは外出を控えさせられている。
 アジールの所在を求める輩の目がある。企てた当事者の影が掴めないという理由もある。だがそれ以前に、包囲、最悪討伐という間、イザークはノリコの傍にいられない。そうした物騒な中に、ノリコを同行させる訳にもいかない。屋敷にいた方がまだ、安全であるという理屈だ。
 だからといってノリコも悶々と時を過ごす訳ではない。出られない代わりに、針と糸を駆使することにその時間を費やすことにした。お陰と言ってはなんだが、やはりお陰でノリコの方も作業は随分と進んでいる。
 先日の指の怪我を考えれば、上出来の部類だろう。ジーナの衣装は当に完成を見、自分のそれも既に鈴を付け終えた。
 今は別のものに取り掛かっている。そして――…実はこれが、一番気を要した。
 ジーナの衣装にも無論気は遣ったが、元々が易しい行程であるから、丁寧にやったとしてもそんなに時間は掛かっていない。
 しかしこれは……今取り掛かっているこれには、それ以上の気を駆使している。そして、そうするのが楽しかった。一針、一針、進めれば自然と微笑みが零れ、喜びが生まれた。

「……ん、やっぱりこの綴り、難しいな……えぇと」

 布から目を離し、ノリコはもう一度下絵のモチーフを確かめた。イメージしたそれは書紙に書き付けてあって、寝台脇の小卓に置いてある。詰まると、ノリコはこうして確かめながら慎重に進めていた。

「ん……ここで曲げる……だから、こっちを少し詰め気味に入れて、ここで少し膨らませて……あ、そうか」

 ――――トントン……

 不意の扉を叩く音に、ノリコは顔を上げた。イザークの気配ではない。

「――ジーナです。ノリコ……いる?」

 可愛い声に、すぐに破顔する。

「ジーナっ……ええ、どうぞ!」

 手にしていた布と針とを脇に置き、扉へと歩み寄ったノリコは、そっと取っ手を引いた。そこには、ジーナが幾分恥ずかしげに立っていた。

「ご苦労様でしたジーナ。だけどまさか……一人?」
「ううん、あのね、カタリナさんが下まで送ってきてくれて……でもまた行ってしまったの。ここまでは、あたしだけでも大丈夫だから……」
「そうだったんだ……アゴルさんは?」
「お父さんは、皆と一緒。早く解決させたいからって」
「そっか……特定する占いで疲れたでしょう。あ、そうだ、頂いたお菓子があるのよ、こっちへ来て食べない?」

 微笑みながら、ノリコはジーナを誘った。
 ジーナは根城特定の為、イザーク達と共にいた。だが、それ以上になると少女の身には荷が重い。然るべき務めを果たしたジーナをカタリナが屋敷まで送ってきて、その後戻っていったのだった。
 幾分緊張を強いられる場とは違い、ここは柔らかな気配に満ちていた。

「ジーナのように、あたしにも役に立てることがあればいいのにって思うんだけど……あたしが行ったら却って足を引っ張るだけだし。残念だけど、今回は大人しく留守番……ふふ」
「え……でも、あたしだって、できるのは占いだけ……それだって、石が見せてくれてるから。それに……」

 少しだけ言い淀む。

「……あたしがいると、お父さん、自由に動けないから……」

 菓子が盛られた皿を、ノリコは小卓に置いた。

「二人とも、今は待ってることがお役目かな? さ、食べよ?」

 微笑うノリコに、ジーナもまた微笑んだ。小卓の上の皿とは違う気配を感じ取り、伸ばしたジーナの手が止まる。ノリコの手元や寝台の上の布物に、ふっと見えない眼を向けた。

「……繕いもの?」
「あ。……ふふ。ううん、ちょっと待ってね」

 言ってノリコは、仕上げた衣装をそっと手に取った。鈴の音を立てぬようにしながら、椅子に掛けているジーナに静かにそれを宛がってみた。――あ、とジーナの瞳が見開かれる。

「……これ……」
「わかる? ふふ。可愛い妖精さんの、で、き、あ、が、り!」

 チリンと、可愛らしい音が鳴る。ノリコの軽やかな声と共に、それはとても心地好く聞こえた。柔らかな布の感触、所々に付けられた鈴の存在。そして、音――
 見えなくとも、それがどんなイメージであるのか、ジーナには解る。解るのが、嬉しかった。

「……ありがとう、嬉しい」
「ふふ、良かった、喜んでくれてあたしも嬉しい。ほら、あたしのもね、さっきできたの」

 そうして、ノリコも自分用のを宛がってみせた。チリリンチリン――と、心地好い音が、まるで鳥の囀りのようである。
 姿も、そしてその宛がう様子もジーナには見えないが、彼女の持つ温かな気配が、声、布の白、そして鈴の音で、キラキラしたイメージとして伝わってくる。
 明るい、光のイメージだ――…そうジーナは感じた。

「お祭り……ちゃんと開かれると……いいね」
「……ジーナ」

 ジーナの呟きに、ノリコは眉尻を下げた。衣装を寝台に置き、ふうわりと優しくジーナを抱きしめる。

「……大丈夫、きっと……イザークや、アゴルさん達が、なんとかしてくれる。今までだって、ずっとそうだったもの。きっと今度も、大丈夫……」

 ノリコはジーナを気遣ってそう言ったが、ジーナは自分のことで呟いたのではなかった。
 アジールの名が出て、きっとノリコの方が心を痛めている。吟遊詩人のサーガのように、アジールは世界にとって、光への導き手になったのだ。なのに、それを快く思わない人間がいる。
 それが、どういうことであるのか――年若なジーナでさえ、理解できた。
 何事もなく、無事であれ。そうノリコが最も思っているであろう。……それなのに――

「うん、ありがとう。ううん、あのね、あたし、ノリコの妖精が見たいの」
「ジーナ?」

 くす、とジーナは微笑った。ジーナも思ったのだ。祭りでノリコの妖精はきっと綺麗だろうと。
 ノリコは微笑み、そっと己の額をジーナのそれに宛がう。

「あたしも、ジーナの妖精が見たいわ。そして、皆の幸せな顔が見たい」
「……うん」
「じゃ、お菓子食べようか」
「うん、食べよう」

 そうして二人、にこり微笑った。

「もう一つ、何か作ってたんでしょう?」

 えっ――と、不意を衝かれた顔を晒す。ジーナはやはり微笑んでいる。寝台の上の、衣装とは違う布物の気配を感じ取っていたのだ。
 ノリコは照れたように頬を染めた。

「あ……これ?……うん、刺繍なの。綴りが少し難しくって」
「でも、凄く嬉しそうだよ。なんていう綴り?」
「えーっ……、それを言ったらバレちゃうなぁ」

 どうしようかな、とノリコは困った笑みを浮かべた。だが、それが照れの部類であるのも、ノリコとの長い付き合いでジーナはちゃんと知っている。

「触れてみても……いい?」

 ジーナの申し出に少しだけ考えるようなそぶりを見せ、観念したようにノリコは微笑った。

「ここに針があるから……あ、ちょっと待ってね……」
「大丈夫」
「え?」
「気配で、解るよ」

 一瞬見開き、すぐに吐息混じりの微笑みを溢した。確かにジーナには針の位置も気配で解るだろう。それでも、ノリコは縫い掛けの針を別な布で厚めに巻き、指に当たらないようにしてから、刺繍の部分をジーナに持たせた。

「長い布、これは……帯?」

 布の脇を辿り、端の縫い目に触れ、それが意外に長いことにジーナは気付いた。当たり、と照れ混じりで白状するノリコの声…――
 肝心の綴りの部分にそっと触れる。まるで点字に触れるような仕草だが、点字と違い、縫いつけてあるのは実際の文字である。
 ――但し、二種類。一つはこの世界の文字、そしてもう一つは、ノリコの世界の文字だ。
 見えてなくても占石の力で見られるジーナは、文字の形や読みについても、教わって知っている。だから、この世界のそれの綴りは、指先の感覚でも解った。

「解った……これ、名前ね、イザークの……そうでしょ? 贈り物ね?」
「当たり。……でも、イザークには内緒にしてね?」
「うん、勿論。……素敵な贈り物……」
「本当? 嬉しい。いつも身に付ける布物に、名を刺繍して贈るっていう風習のことを、前に聞いたことがあるの」
「あ、それ知ってる。想いを込めて名を入れることで、大切な人を守ってくれるっていうおまじないでしょう?」
「うん。……でも、ちょっと悩んじゃったのよね……あまり目立ってもいけないから、大きくは刺繍できないし……だから、巻いて隠れる程度に、ね。……で、綴りが難しくて……今もね、実は四苦八苦してたの、もうそんなに日がないから」

 恥ずかしそうに頬を染め、ノリコは頭を掻いた。

「こっちのは、なんていう綴り? やっぱり、名前?」
「それは、向こうの世界の文字なの。あたしの育った国のではなくて外国ので……"エイゴ(英語)"っていってね、メイス、ザバロ、アルス、レネ、ギスタの順で綴ってるの」
「……文字が、流れてるような感じ……面白い形……」
「うん……そうね、こっちの世界じゃあ、やっぱり面白い形になっちゃうか」
「え、変?」
「ううん、文字の形が違うんだから、仕方ないわ、ふふ。……でもあたしにとっては、こっちの文字の方が面白く見えたなー……なんだか暗号模様みたいって、最初はそう思ってた」
「暗号……模様……」

 ぽかんとした顔になる。そして、二人共に噴き出した。
 乙女二人の微笑い声に、木立で囀る小鳥の声が重なる。









 はぁーー……

 小鳥の囀りとは似ても似つかない。男の溜息が、路地裏に湿っぽく響いた。

「どうしたアゴル、溜息なんかついてよ……」

 バラゴの問いにアゴルは顔を上げ、ややもって、ああ……と、苦笑いを溢す。

「すまん」
「ンだよ、らしくねえな」
「いや……いっそ、一思いに白状させたい気分になってくるんだ……だから、つい滅入ってな」
「……アゴル」
「んー? ふん縛って吐かすってのは、俺の得意分野だ、と一応言っておくぞ。おまえがそんなことを溢すとはな」

 笑ってやり過ごすには些か身震いを覚える科白。……無論、軽口であるのだが。そしてこんな物騒な科白を吐いても、本質は涙もろく心優しく、花好きで、花好きで、花好きで…………

 街の通りの一角に、イザーク達はいた。何気ない風を装いながら、関係筋の人間の特定をしていた。元灰鳥の面々は、別行動だ。

「ジーナ絡みだからか」

 イザークが問う。――若い衆だろうか、さっきから何度か出入りを繰り返している戸口のある建物が斜向かいにあった。
 またもアゴルは溜息をつく。

「あのな。湿っぽい溜息の繰り返しは、寿命を縮めるって言うぜ?」

 思わず、詰まる。些か引きつった顔でアゴルはバラゴを見た。

「……それは、本当か?」
「ノリコが言っていたぞ。なんでも、一度のそれで約五年だそうだ。ノリコの国では、そう言うらしい」
「ならば、俺の寿命も縮まってるな」

 さらりとイザークが挟んだ。

「あ?」
「最初の頃は、ノリコ相手によく吐いていた気がする」
「おまえはいいんだよ、仮にそうでも充分挽回できてるじゃねえか。今じゃ溜息吐く暇も必要もないだろ。この幸せモンがっ」
「さっきの話だ」

 髪をわしゃわしゃされ、しょうもないところに話題が行きそうで、無理矢理、溜息と寿命の関係話に終止符を打つ。
 ああ――と、アゴルが再び、息を吐いた。

「どうも解らない、とジーナが言うんだ」
「何の話だよ」
「首謀者の影がはっきりしない。まるで霞が掛かったように」
「それはあの晩にも聞いたよな?」
「ああ……その上に、どうも反対の占の結果が出てくるんだ」
「奥歯に物が挟まったような言い方するな、はっきり話せ」
「……それができれば苦労せんよ。……とにかくだ、奴等の存在を捉えることはできる。召集を掛けて、力を散らせることも……それでも、祭りでの人々の叫びは、占いから消えてなくならないんだ」
「どういうことだよ」
「策は上手く運んでいる。だが、芳しくない占いのそれも依然として出る……首謀者の影も掴めない。……気になったのが、首謀者と話をする存在の影だそうだ」
「話……?」
「奴等の仲間同士での話し合いじゃねえのか?」
「まず、衣装が彼等と大きく異なっている。あれはどう見ても占者の出で立ちだと、ジーナは言う……」
「占……なんだよ……いったい何処のどいつだ?」
「そこが、まだ掴めない」

「占者……」

イザークは幾分目を伏せ、腕を組んだ。

「心当たりでもあンのか、イザーク?」
「……そういう訳でもないが……この町にも、占者がいたな」
「ああ。ジーナも俺達も、まだ面識はないがな」
「んー、そいつは普段何処にいるんだよ、役所か?」
「この町の規模ならな。もっと大きくなれば、大抵は専用館……或いは町長や有力者の館お抱えっていうのもありだ。ただ、ここの占者は中央にもよく出向いているらしい。面識が薄いのも、肯けるな」
「ああ、そうか……ゼーナにも館があったな……しかし、占者ってのは結構いるモンなんだな」
「バラゴ?」
「俺は、占者ってのは、もっと稀少な存在だと思ってたんだがな。国専占者に町専占者……その上、奴等の方にもお抱えかどうかは知らんが、いるかもしれンのだろう?」
「まあ、そうだな……しかし、やはり未来を見ることのできる人間は、そう多くはないと思うぞ」

 二人の会話を耳にしながら、再度イザークは思案する。

「首謀者には霞が掛かっているんだったな……」

 アゴルは肯いた。

「だから、手っ取り早く吐かせたいってぇのか?」
「そういうことだ」
「説明が回りくどいンだよ」
「許せ」

 アゴルから苦笑が洩れた。

「……探していると、そう占いに出たんだったな……」
「探す……ああ、ノ……ぁ、いや、"乙女"のことな」

 何処で目星を付けられるのか、それを危ぶんでいた。だが、ノリコを屋敷から出すことはない。だから、その服の切れ端でさえ、掴める筈がない――

「……だから、探せる筈がない……」
「イザーク?」
「ンだよ、何か判ったのか?」

 占者を遣って調べさせるいうことなのか……ふとそんな考えも、浮かんだ。
 向こうにも占者が附いていると考えて、おかしくはないだろう。しかし――自分たちの存在を明かしている対象は少ない。そして、未だはっきりした像を占者は占えない。
 ならばその姿も居場所も、特定できるとは思えない……

 勢力の分散が果たされても、祭りでの人々の叫びは消えないという占い――
 最後までアジールを特定できないからだろうと思っていた。
 ノリコだけは、絶対に見いださせはしない。最初からそのつもりでいたのだ。
 ――拡がる照準。攻撃の無差別性。祭りが狙われるというのも、狙いの照準が不特定者へ拡がるからだろう、と。
 だが占者がいるというなら、事情は少し異なってくる。
 力の分散が為されても、彼等に動揺めいた動きが見られないのも、その所為か。
 しかし……

「……それだけでは、理由にならん……」
「おまえ一人で納得するなよ。解るように説明しろ」

 情報が足りない――最初はそう思った。だが、子供といえど、ジーナの占の力は侮れない域のそれ。
 なのに、未だ霞の掛かる、その存在。
 何故、首謀者の姿が未だ見えてこないのか――
 肝心なところが、抜けてしまっている。

 この違和感は、いったい何なのか。
 そもそも、その占者とは――

「……まさか……」
「だから、おまえ一人で納得するなと……」

 祭りは一つの指針に過ぎない。
 では、中止にしたなら、彼等はどう出る。
 既に占者によって気取られているのであれば、開催を押し通すのに意義があるとは思えない。
 中止になれば、少なくとも、その惨劇は防げるのではないか。
 そして、彼等を確実に捕捉してからでも――

「……遅くはない筈だ……」
「……イザーク、おめえ、人の話聞いてねえだろ?」









 心に引っ掛かることがある――占石を優しく握りながら、ジーナはそう言葉にした。
 そして語られたその内容に、ノリコは絶句する。

「……それ……って……」
「うん……日が経つにつれてね、叫びながら逃げる人の影が濃くなるの。お父さんにも言ったんだけど……」
「ジーナ……」

 思わず、ジーナを抱きしめた。

「……大丈夫?」
「ん……ありがとう。……どうしても解らない影があって、この間までは首謀者らしい人だけだったの。だけど……」

 腰掛けているジーナの前に膝をつき、そっと見上げる。

「解ったとか? それとも逆? ……もしかして、増えてる?」
「うん……別な人。着ているものからすると……占者かも……」
「え……」

 どういうことだろう、そうノリコも考えた。

「占者も、仲間?……ひょっとすると……」
「そうなのかな……今はまだはっきりしないんだけど、でも、話している姿を占ると、そんな感じにも思える……」
「じゃあ、ひょっとしたら……」

 こっちの計画など、見通しているのかもしれない――

「アゴルさんから、イザーク達にも伝わっているよね、きっと……」
「うん、お父さん話すよ。ううん、もう話してる」
「そっか……」

 しかしノリコも、イザークと同じことを考えた。たとえ占者であろうと、デラキエルとアジールを占(み)るのは、今はまだ不可能な筈だ。先については、定かではないが……

「ノリコは、ずっとここにいる限りは、知られることはないと思うの。もし知ってたら、祭りでのあの叫びは多分ない。だって、確実にアジールだけを狙ってくるもの」
「うん、そうね……」
「……叫んでいる中に、女の子がいる……」
「え……?」
「小さな女の子、そしてたくさんの悲鳴の中に、ノリコと同じくらいの年の女の人の叫び声。……いろんな叫び声が重なってて、なんて叫んでいるかは、はっきりしないんだけど……」
「ジーナ……」
「根城の捜索も、その人達の包囲も順調にいっている筈なのに、それが消えてくれないの……」

 そんなことになるなら、多分祭り当日も、ノリコはここを出ることを許されないだろう。
 襲撃は、きっとイザーク達がなんとかしてくれるだろうが、それでも何処か、防ぎきれない穴があるのだろうか。向こうにも占者がいるのだとしたら、こちらのそれが向こうにも悟られ、それが穴となるのでは……
 だとしたら、イザーク達にも何かしらの害が…………
 ――いや、そもそもが変だ。占者に見通されているのであれば、祭り開催を装わなくてもいいのではないだろうか。

「……っ」

 思わずその場に立つ。悪戯に悩んだところで解決へ何ら寄与するところとならないのは解っている、しかし……自分一人がこんな所にいていいのだろうか……
 いろんなことで、頭の中が混乱してしまいそうだった。

「……ご免……なんだか、余計な心配させちゃったみたい」

 申し訳なさげなジーナの声に、慌ててノリコは頭を振る。

「知らないよりはずっといいよ。それに、ジーナ一人で悩まないで? あたしでも何か考えが浮かぶかもしれないし……」

 叫び声が見えるなら、ジーナにも相当な負担となっている筈だ。自分だって、そんな場面をずっと見なければならないとしたら、確実にトラウマになっているだろう。
 それに――
 元よりこれはデラキエルへの挑戦だ。アジールの捜索とは、ノリコを探すとは、そういうことだ。

「でも、……ノリコは大切な贈り物も縫わなくちゃならないのに……」
「え……あ……」

 片や重大な話だというのに、一方であまりに平和な話題であるのが……些か不謹慎にも場違いなようにも思えてくる。
 しかしジーナの言うのももっともで、たとえ不謹慎だと諫められても今の自分には重要な事柄で、悩ましさと天秤に掛けても、やはり週末までに仕上げなければならない訳で……
 ぐうっと拳を握ったところで、今まで息を詰めていたというのに気付いた。
 緊張していたそれが、ゆるゆる抜ける。

「……大丈夫?」

 挙げ句、ジーナに心配される始末である。思わず、赤い顔を晒す。

「ご免……なんか……えへへ。……うん、今慌てても仕方がないんだものね」

 それでも考えていれば、何か良いアイデアは浮かぶのではないかとも思うが。
 そして、イザークが帰ってくるまでにこれをなるべく進めなければならないのも、紛うことなきそれで……

「あたしは大丈夫よ。ノリコ……贈り物、進めて?」

 ジーナの言葉に、ぽすん――と、脱力したように寝台に腰を下ろした。
 はふ……ぅ……
 意識せずとも、長い息が洩れる。
 そこへ――…


―― ノリコ ――


「ひふ…っ」

 いきなり呼ぶ声が聞こえて、びくりと跳ねた。ジーナも、そんな素っ頓狂な声を上げたノリコに驚いて、大きく瞠った。

「……ノリコ?」
「え、あ、ち、違うの……イザークが、」

 慌ててノリコは手を振り、今度はその両手を包み込むように重ねて胸元に添えた。意識を集中する。
 何かがあったのか……

「……イザー…ク? ど」
―― どうした、大丈夫か? ――
「え……な、何が?」

 今度は、ノリコの方が目を瞠る番だった。一瞬訳が解らず、赤くなったり蒼くなったりする。

―― ど、どうしたの? あたしが、何か……? ――
―― ……今しがた、酷く気が乱れたようだが。大丈夫なのか? ――

「……あ」

 顔から湯気が出そうになる。不安と心配とが入り乱れ、知らず強く念じていたらしい。瞬時に軽い自己嫌悪に陥った。これでは思念だだ洩れではないか……

―― ご免なさい……、あ、あ、あのね、ジーナと話を……占いのことで、少し……でも大丈夫、心配させちゃってご免…… ――
―― ……ジーナの……そうか…… ――
―― そっちは……大丈夫? 何か、変わったことは…… ――
―― 今のところは…………占いの件では、皆と少しばかり話してはいたが ――

 やはり、という思いが走った。

―― 何もないのならば、いい。少し調べたいことがあるから、後でな。……ああ、それから ――
―― え?…… ――
―― 俺が戻るまでは、決して外には出るな……いいな? ――

 温かな "声"……

「……うん」

 頷くと共に、祈るように瞑目した。心に想いを描く。

―― イザークも……あ、あのね…… ――
―― ん……どうした? ――
―― ……大好きだよ……気をつけて……帰り、待ってるから…… ――

 想いを念に乗せた後、沈黙があった。


――あれ……

 返ってこない応答に、ノリコはふと目を開ける。
 いつもならば、思念にはすぐに、一言であっても返してくれるのに――
 何も好きだとか、愛しているとか、大層な返事を期待してではない。
 ただ相槌一つ、それでいい。それだけだったのだ。
 よもや返事を聞き逃してしまったか――そんな的外れな推量までよぎり、妙に脈が上がる。
 どうしたのだろうとほんの少し不安顔になる。
 そんな感じの不自然な沈黙だった。

 だから、ノリコは気付いていない。
 こんな時に愛の告白もないだろうが、何も特別考え抜いた告白でもなく、空気の読めない不謹慎な科白という訳でもない。
 ノリコには、常と変わらない。いつもの、イザークを案ずる自然な彼女の姿である。赤面事を言ってしまったという概念もない。
 なのに、その自然体の姿勢で無意識に、惚れた男を喜ばせている。
 ――生まれた沈黙は、イザークが赤くなった所為だ。

「どした、イザーク……顔が赤いぞ」
「……いや……」

 そうして、赤い顔を見られぬようバラゴとアゴルに背を向けた。
 そして、ノリコに念を送る。
 沈黙となったのをまず詫びる、その辺りは、彼らしい。

―― 俺もだ…… ――

 待っていてくれ…――と、短い返答なりに、その時点での精一杯の幸福を噛み締めている。
 何も初めて愛の告白をされたという訳でもないのに。
 唯一人、至高の存在からこんなにも愛されることに未だ慣れてない。
 あまりに大事で、畏れ震えるようにいいのかと思う。その意味では、こちらも盛大に脈が上がっている。
 きっと幾度同じ言葉を聞かされても、都度この男は赤くなるだろう。

――生まれてきて良かった……

 予測してなかった分、不意打ちの感動は大きい。
 そうしてじんわりと感動に浸る姿は、"不謹慎" も "場違い" もこの際どうでもいい次元だろう。


 返事を貰えて、ノリコもほんわりと温かくなる。普通人にはない、こうして思念での遣り取りができる辺り、ノリコも充分幸福な娘だ。

「ノリコ……イザーク?」
「うん……慌てて、念が送られちゃったみたい。イザーク、心配してそれで……ご免ジーナ、びっくりさせちゃったね」
「平気。でも、ノリコらしいね、ふふ」
「えへへ……」

 照れてノリコは頭を掻いたが、ふと――それでも、と思いがよぎる。
 己のことが関係しているというのに、何もできないというのがひたすらに情けない。
 だけど、何かをしようにも策がない。ただ足を引っ張るだけのようにも思え、それがまた情けなくなる。
 勿論、危険が及ぶようなことなど、イザークは絶対にさせてはくれないだろうが……

 寝台の上に置いた布地を、おもむろに手に取った。
 生じる僅かな沈黙――

「ノリコ……まだ考えてる?」
「え……」

 ジーナを見つめた。つぶらな瞳を前に、ノリコは頭を振る。

「ご免ね。……うん。今、あたしにできることって……やっぱりこれしかないよね」

 イザークが戻ってくれば、さすがに内緒のこれは見せられない。日も、もうあまりない。
 何より、悩みながら縫い仕事をしても良い物ができる筈がない。これは大切な贈り物であるのだから……――

「やっぱり、今はこれを頑張るね」

 心落ち着いて時を過ごす方が、イザークも喜ぶだろう。意味合いは少し違うかもしれないが。
 そうと決まったら時間が惜しい。すとんと腰を据え、改めて針を手に取ると、ジーナに笑顔を向けた。

「――ね、お菓子食べて?」





 広場に面した通り沿いに置かれた木の長椅子に腰掛けながら、ダンジエルは行き交う町の者達をさりげなく観察していた。
 時折欠伸を洩らしたり、ゆったりと腕を組んでみたり。風情は完全に午後の日和を楽しむ老人のそれだが、その目は、目星を付けた建物に出入りする男達を、そして窓の内側の動きをつぶさに追っている。
 所謂中央からの召し上げにより、ある程度の勢力分断には成功している。ここに残っている者達は、それでも応じなかった輩だ。
 ローリは夜の巡回を主に。女装が趣味のウェイと、正真正銘女性であるカタリナは、短期の家政婦としてちゃっかり雇い口を見つけてしまった。いずれもしたたかに動ける頼もしい戦士達だ。

 束の間、居眠り爺を演じていたダンジエルは、近づく気配にゆるり目を上げた。
 隣りに静かに腰を降ろしたのは、イザークだ。

「いい日和ですな……」

 通りに目を向けたまま、にこやかに話しかける。イザークもまた、微かに笑んだ。

「ええ……」
「全くこんな時は、のんびりするに限る……ふっふ」
「…………」

 他愛のない世間話。しかしイザークは無言のまま、若干視線を下げた。

「変わったことなぞ、ありましたかな?」

 微笑を湛えた表情は変えぬまま、それでも、今度は幾分声を落として問うた。

「……一つ、確かめたいことがある」
「ほう」

 呟いて、興味深げにダンジエルはその視線をイザークに傾けた。


 束の間の刻。上層の細雲が流れていく――

「……なるほど。初耳だが、考えられぬ話でもない」
「できれば、動向を知りたい。可能だろうか」
「如何様にも」
「――頼みます」









 ――その晩。深宵を更に過ぎていた。
 街中のある豪奢な建物の中の一室に、男達の話し声があった。


「……些か、難儀なことです」

 嘆息する言葉を発した男は、一見柔和なその表情を崩さず、場に佇む。
 男のいる場から暫しのところに長卓があり、酒の入った瓶と杯が置かれている。そして別の男が二人、それぞれ肘掛け椅子に座していた。

「随分と、引き抜かれてるようだな」

 一人が言葉と共に笑い声を発するが、その目は少しも笑ってはいない。頑丈そうな体つきだが無駄な肉ではない、一目で精悍な男と判る。そして、男の頬には刀傷があった。

「ですから、最初に申し上げたのです。……彼等も人の子……相当な志でもなければ、国からの報酬はやはり魅力に思えましょうぞ」
「けっ――」

 軽く忌々しさを表したもう一人の男。大柄で、背凭れに深く身を預け、それほど長くはない脚を強引に組む。その面は、常日頃より悪態を吐いていそうな様相だ。
 頬に傷のある男が、呟いた。

「別に奴等を縛り付けてる訳じゃない。やりたくないなら、好きにすればいい」
「彼等には――」

 佇む男が告げる。この"彼等"は、先のそれとは異なる。

「占者が附いております。……此度の企てを察知してのことと」
「ああ、なんでもまだほんの餓鬼なんだってなぁ! ご立派なこった! 餓鬼のクセに占者! ハッハッハー!」

 大口を開けて、大柄な方の男が笑った。

「笑い事などでは……占の力を侮ってはなりませぬ。引き抜きには、国府も動いておりますゆえ。そして、その占者と共に、些か気になる者達の存在も……」
「それを詳しく占うのが、あんたの仕事だろう?」

 その為に金を払っている、と傷のある男は言った。
 ――佇むこの男は、占を生業(なりわい)としていた。

「手向かう動きがあるなら、教えてくれればいい」
「あちらの動きが解れば、こちらの動きもまた読まれておりまする。国府の者と共に動く、屈強な者達がおりますな」
「共に……軍とは違うのか?」
「秘密裏に動いてはおりますが。大変腕の立つ若者で、クレアジータ殿の客人も含まれております」
「クレアジータ……」
「クレぇぇ?……あンの野郎、奴の所為で……くそっ、俺は奴に恨みがあるんだ……まんまと返り咲いただけでなく出世までしやがって……」

 酒の入った杯を掴み、一気にそれを呷る。

「どの国もすっかり腰抜けになりやがった! この国もボーニャ一族の失脚以来、上の奴等が全部替わりやがった……これも光サマのお陰ときた。けっ!」
「光か……先頃、グスタと街へ出向いた折……広場の吟遊詩人に、出し物で二、三、問うてはみたが」

 男はふっと、笑う。

「面白い趣向だ。アジール……清らかなる乙女か……」
「まだ、お探しなのですか」
「当然だ。それに、アジールがいるなら、デラキエルも近くにいるんだろう。詩人は、よく一緒にくるのだと言っていた」
「――まさか」

 あり得ない、という風に占者の男は頭を振る。

「それを真に受けるおつもりか? 真実、当人等であると差している訳ではありますまい」
「だな。……だが、興味深い。ふっふ」
「アジールとデラキエルだとぉ? ふざけやがって……上に取り立てられなかったのも、親父達が失脚したのも、そいつ等が出しゃばった真似しやがったからだ、くっそう……何処にいやがるっ!」
「いずれにしても、このままでは…………狙いなさるのですか?」

 くくく…――と男は杯を手に、笑う。

「二足のわらじのあんたも、このままじゃ身が危ないよな。こっそり逃げるか? 国外に――」

 言われた男は、困惑した色を顔に浮かべた。

「私には、逃げる場所など……宜しいですか、彼等は頭(かしら)の存在を探しておりますぞ」
「頭ぁ? そりゃ、俺のことよ。な、そうだろ? ハッハッハー!」

 男はふんぞり返った仲間の男を横目で見、失笑とも取れるような笑みを浮かべた。

「確かに、あんたが頭だ」
「おおよ、俺が頭よ。あんたも少しは有能だがなあ、いざって時にダメだ、ハッ!」
「――いざとなれば、町の女全てを消せばいい」
「あ?」

 本気か?――と、笑いを止めた男は面を突きだしてきた。

「……女、全部か?」
「……無茶な……」
「いざとなれば、こちらも捨て身……向こうに動きが読まれているなら、こっちも、町の女全てを消す覚悟なまでだ。――何処まで防げる? その屈強な者達とやらに……」
「ゼフ殿……」

 ゼフと呼ばれたその男は、少しも顔色を変えない。

「アジールを血祭りに上げることができればと思っていた。この世界の何処かに存在するというアジール。あんた等占者の、あの忌々しい占(よ)みがあってからな……」

 そうして、横の男を見遣る。

「あんただけじゃない。……恨みは、対クレアジータに限らない。光の側についたというデラキエルにもそうだ。そして、それを誘ったとかいうアジールにも……」
「しかし、ゼフ殿……」
「捕らえることができれば面白いだろうが。どんな形をしているのか。人であるのか、それとも獣のそれと変わらないのか。ふん……夢見高い詩人様の理想か、奴等は人だという。そして、町にそれらしげな人物がいるという……清らかな乙女がな」
「全くの別人でありましょう。や……そうそう都合宜しくあるとお思いになる方が、どうかしておりますぞ」

 男から、すーっと表情が消える。

「その女を占え。ついでに、いつも傍にいるという聖騎士みたいな男のこともな」

 無表情だが、言は冷たい。無謀な要求に、占者は深く嘆息した。

「……あなたも私も、直接その者等に会った訳ではないのです。手掛かりのない人物におきましては、目の前に戴かなくては占えませぬ。残念ながらと申し上げるしか……」
「役立たずが」
「お汲み取りくださいませ……殊にデラキエルとアジールは歪んだ画でしか捉えられぬのです。らしき者をとのご指定だけでは、とても……」
「……ふん……まあ、いい」

 男は椅子の背凭れに深く己の背を預けた。

「掴めなければ、国の女全てが消えるだけだ。可能性があるなら全て潰す。アジールなど、この世界には要らんのだ。明後日の前日祭は、最高の物見遊山になるだろう」
「正気の沙汰では、ありませぬぞ……」
「へっ、いいじゃねぇか。女の断末魔も、考えてみりゃあ、乙だぜ?」

 占者の男は絶句した。

「女は世界中にいるんだ。この国一つ分無くなったって痛くはねぇってもんだぜッ、ハッ! こりゃ、愉快だぜッ!! ハッハッハー!!」
「…………ドロレフ殿、あなたまで……」

 名を呼ばれた男は、ひたと笑いを止めた。不快げな皺を眉間に深く刻む。

「……その名で俺を呼ぶな……殺すぞ」







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自分が書いたクセに、後から見たら意味が通じないって部分「あれ、これってどういうことだったっけ」が出てきてしまい、
「どうにもこれじゃいかん」と考え直す必要を感じた為、今回も時間を要してしまった次第。すみません。
←全く、全然成長しとらんよ。
不本意ながら体調の芳しくないのもまた顔を出す気配、野暮用続きと相まって半分逝カレてました。もぉ、イザークさんの底なしの体力が欲しいよ。←右の肩がまたヤバイ……
考え直して加筆したら……5KB増どころじゃ済まなかった。15KBも増えるて、どうよ(遠い目)

物騒な科白がてんこ盛りになってきた今日この頃。
益々ほのぼのから離れるなぁ。
でも、ノリちゃんの話題がでると、ほのぼのしてイイ。彼女は私にとっても歯止めになってくれてます(笑)
可愛いよぉ、ノリちゃん、ホントにホントに、可愛いよぉ〜〜♪(*´Д`)
メイス、ザバロ、アルス、レネ、ギスタ。
何のことだよ……ですが、あちらのアルファベットと捉えて頂くと嬉しいやら、有難いやら。
「転想転界」にちらと載せたりしたのですが、覚えている方はいらっしゃるでしょか?(どきどき)
メイスは「M」じゃないですよ、ちなみに。

で、ただの「男達」で済ませる筈が、こちらの御仁にも名が(苦笑)……
なんか、段々名が増えるんですけど。成り行きって恐ろしい……
聞き覚えのある名も出てますね。これには私自身びっくり。
この御仁を出すつもりは最初はさらさらなかったんですが、内容に手入れした時にふいっとシャシャリ出てきて(苦笑)。。
町は違うけど同じアイビスクですし、一応縁はありますな。ちなみに、あのステニーの町はこの町よりも北方に位置という設定です。
で、詩人さんに尋問した時のおっさん二人の内の一人は別におります。
一応名を出しましたが、ちょっと礼儀の足らんあのおっさんは今回は出ておらず。
礼儀は足らんけど、「ドロレフ氏」よりは遙かに「ゼフ氏」に忠実です(笑)
そんなに重要な位置に置かなかったので、多分次回以降も、その他大勢に括られるだろうと思う今日この頃(笑)
二人組の内の一人が、今回の「ゼフ氏」です。
名を出すつもりがなかったと言うように、大した設定を考えておりませんでした。
未だに、どういう繋がりで関連を置こうか……実に大雑把です(滝汗)
さて、困った(ぉぃ ←や、ホントに困ってるんですよ。


イザークさんが照れたり赤くなったりすると可愛い!というのを再認識。
多分、こういう感じだったんだろうなぁ……ねぇ、daa様? や(人д`o) すいません、やっぱり捕捉でお話作らせて戴きます。
脱線というか、拡がりすぎた……
いや、散りばめてはいるんですが。←散りばめすぎ
この御方は、「かっこいい」も「素敵」も「強い」も似合うけど、「可愛い」も似合う。勿論、照れたり焦ったりするところデス。
ついでに、適度な「へたれ」も似合いそうだ。
うん、男は、惚れた女の子の前では「かっこいい」部分も勿論だけど、「へたれ」な部分も晒して欲しいね。
イザークさんは、弱い部分を晒すのはあんまり好まないかもしれないけど……
母性本能を大いにくすぐるのだよ。……結婚後は大いに甘えて頂くとして。←野望高し。←何の野望だ?
「ドロレフ氏」がそれをやったら、問答無用で殴り倒(以下略
っていうか、このドロレフ氏。確実にオーロラエクスキューションの餌食だと思った……
占の力を侮ってはなりませぬ。
え、どっちのドロレフ氏? さあ、どちらでしょう(笑)解りますよね。
なんであいつが頭なんだ! ええ、私も怒ってます。なんであいつが頭なのよ、シャシャリ出るんじゃねぇ。
まあ次回、"自称"頭さんに相応しい行動(責任)を執って頂きますよ、ふふふふ。


キャラの暴走(笑)などもあり、異なる者と異なる展開が加わった為、最初の構想ともちょっと違ってきています。
でも、あと数回……うーん、数回って何回だ?
自分でも解らなくなってきた、今日この頃(遠い目)
5回以内…………多分そこまではいかないと思います。うん。
こんないい加減なヤツですいません。付き合ってくださり、ホントに有難うございます。
皆様の愛に感謝。次回もどうぞ、宜しくです。

夢霧 拝(11.02.11





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